ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

もうほとんど令和のキリスト

月末になると金策に苦しみSOSを出してくる友人がいた。悲しいかな過去形の友人だ。言われた額を何も言わずに貸していた。翌月頭に返してもらい、また月末になると泣きついてくる。そのルーティンがしばらく続いた。 毎回「お願いします!」と90度に頭を下げ…

手放される力、ある朝の二度寝に想う

有無をも言わさないとはこのことだ ギリギリではない 並んだ数字は遅刻の覚悟をつけざるを得ない組み合わせだった 暴力的な目覚めはボクにスマホを掴ませる 躊躇よりも速く会社の番号を押す 「10分遅れます」と伝える 理由は言わない 今は必要ない 謝り方は…

ヒーローはもういない

『コレクティブ 国家と嘘』という映画を観た。ルーマニアの政府の腐敗に対峙する者たち(挑む者たちと言った方がいいのかもしれない)を追ったドキュメンタリーだ。 生活困窮者支援を生業にしてこの一年、政治色の強い人達と接する中で「正義」について考え…

ヘリクツ

努力、忍耐、根性、その手の言葉が嫌いだった。子供の頃からそうだった。苦労への耐久力が人より劣っていたせいで苦労の絶えない幼少期だった。まあ比べても仕方ない。体質だと受け入れてた(潔さが社会性の余白を埋める)。 「若い頃の苦労は勝手でもしろ」…

ヒーロー

先週末、警察官に捕まった。 ここ数ヶ月、スリップ(薬の再使用)が止まらず、もう捕まるしかないかなあと半ば諦めていた矢先だった。 その日もいつものように出会い系のアプリに掲示されているアゲ系の書き込みにアタックし、Wic/経由で会うことになった。…

キラキラ教

行きたい 食べたい 会いたい 全部は無理だ 今日は何して遊ぼう? 今日はどれを選ぶ? 今日はどれを諦める? 不自由なクエスチョン 時間はいつも有期限 がっかりなボクは不機嫌 苦手な優先順位 選択に護られた豊かな街での生きづらさ つかんだ希望の光はクス…

ディープインパクト

自分という存在の生きながらの解体作業。今の日本社会でHIVになるということはそういうことだ。大袈裟ではない。実際にそういう日々がしばらく続いた。確かなるディープインパクト。 だが人は強い。時間を味方につけた者は最強だ。回復の名の下、バラバラの…

フィールドアイデンティティ

引っ越しの多い人生を送ってきました。 自分には地に足をつけた生活というものが、見当つかないのです。自分は九州の商人の家に生まれましたので幼少時から進学のために家を出るまで一度も引っ越しをしたことはありませんでした。転勤の多い親の影響でこうな…

母という字は難しい

母という字は難しい。どうしても巧く書けない。 母の日のプレゼントは難しい。いつもうまく選べない。 母の好きなものってなんだろう。いまだわからない。 なぜだか女子の友達が多かった小学校時代。いち早くその違和感に気がつき、気に病んだ母は、ボクに男…

収監ダイアリー③

釈放が近づくとみな本面に呼び出される。本面とは保護観察所の職員との委員面接のことだ。この面接から4週目の木曜に仮釈予定者は転房となる。釈放間近な受刑者専用舎房に移る栄光の花道が開けるというわけだ。 Dちゃんがいる。前例に習い本面から四週目の…

テトリスがきまるように

スマホが震える。見知らぬ番号から着信だ。好奇心が強いのでためらわずスライドで応答する。見覚えのない若い男の声が「新宿署、生活安全課の佐藤です。淘汰さんですか」と話す。今ボクはクスリをやっていないし警察から連絡を受けるいわれはない。うしろめ…

直観でもって法則を超えろ

若者は言った。 「できるだけ長く生活保護をもらって生きていきたいんです」と。 ボクは「何言ってんの?ダメだよそれは」と即座に否定した。 受容、自己決定、非審判的態度完全無視。PSWとしてはナンセンスなアプローチといえる。 「まあそれもいんじゃない…

後天性ADHD

オンラインミーティングでモニターに映る参加者たち。与えられたスペースは皆に平等。その枠にボクはおさまれない。しゃべってもいないのに飛び出してしまう。比喩ではない。ほんとそのまま枠から消えてしまうことしばしば。落ち着かなさの見える化。つらい……

ホームフル映画『ノマドランド』

『ノマドランド』という映画を観た。 亡き夫との思い出を宿したバンに乗り、日々を過ごす女性の一年を追った映画だった。大きな事件は何も起こらない。悪い人も出てこない(というか彼女の周りには親切な人ばかりだ)。ホームレス支援の仕事をはじめる一年前…

記憶をなくしてこそ酒

さすがに飲む量は減ってきたが、それでもビール、焼酎、酒、ワイン、リキュールに眞露、紹興酒、なんでもござれだ。二日酔いなんて他人事。どれだけ飲んでも酒に飲まれることなんてなかった。ボクは笑い上戸で話し好き、いい酒の人間だ。アルコールに対して…

淘汰の穴

あえて視野狭窄になる その方が生きやすいからだ 必要のない機能はだんだんと淘汰されていく そのうちそれがあたりまえになる ある部分が研ぎ澄まされていく それは生き延びるため 環境への積極的適応、つまりは最適化 淘汰の穴を埋めるように新しい感覚が身…

ボクの人生はなくし物でできている

ここ何日か社用の携帯電話が見当たらない。 なくしたわけじゃない。 なくしたわけじゃない。 なくしたわけじゃない。 見当たらないだけで、なくしたわけじゃないんだ。 見つかれば、なくしものはなくしものではなくなる。 そう自分に言い聞かせる。 わかって…

収監ダイアリー②

空が高い。「ここ最近でいちばん暖かい」が日々更新されていく。気づけば三月だ。「一月には仮釈もらって出てやる」そう豪語していた大ちゃんがまだここにいる。 「一月に出るんじゃなかったっけ?」とボクはきいた。 「全然ムリみたい。六月くらいになりそ…

収監ダイアリー①

獄友の大ちゃんが訊いてくる。 「CD4いくつなん?」 CD4とは免疫の状態を確認する数値のひとつでHIVの快復の目安となる。健康な人だと1000近くあり、ここ刑務所の病舎にいるHIV患者はだいたい500前後を推移している者が多い。200以下になると医療刑務所行き…

活動家未満のソーシャルアクション

ソーシャルワークにはソーシャルアクションとよばれる技法がある。ざっくり言うと、地域社会の理不尽に対してそれってちょっとおかしいだろうって物申し、変えていこうとする取り組みのことである。(ざっくりすぎてすみません)。 ただしソーシャルワーカー…

押したら最後、友達がいなくなるスイッチ

中学生の頃、塾に馴染めないボクに過保護な両親は家庭教師をつけた。 近所の大学に張り出された募集の張り紙には「癖のある子供です」と但書があったそうだ。(あとになってその家庭教師の先生が教えてくれた)。 親も子育てに苦労したんだと思う。 我慢がで…

ボクが精神科に通う理由

今日は月に一度の精神科受診だった。ボクがこのクリニックに通いはじめてもうどのくらいになるんだろう。 出所時、就職先の受け入れの条件として精神科への通院が義務づけられた。出所したのが2018年の夏だったから、かれこれもう三年になる。 通院に抵抗感…

刑務所で彼氏ができた

刑務所にいた頃、日記を書いていた。二年間、毎日欠かさずに書いた。その日の出来事、読んだ本、覚えておきたい言葉、手紙の下書き…しがみつくように書いた。あの頃、自分の支配下に置くことができたのは書くことだけだったから。もちろん刑務所なんで定期的…

真冬の夜回り

ボクらの夜回りでは夜の都心を二時間ほどかけて歩く。とても疲れる。持ち歩く食材の重さのせいではない。だって配り歩いて荷物は減りながらも肩の重さは変わらない。ちっぽけな自己満足をひとつ配り、大きな罪悪感をひとつ受け取る。 路上で寝ている人へなん…

クレンジングクリームひと塗り

悪口は言っても陰口は言わない そう自分に言い聞かせて生きてきた 言いたいことがあるなら本人言おう どんなに底意地悪くたって直接言えば救いの出口は見つかるはずだと だけどそうはいかない根性の悪さ 人間の小ささ 澱に満たされもれる毒 そして今日、陰口…

もっと大人食堂

元旦の夜、初夢の中でボクは見知らぬ誰かの相談対応をしていた。大晦日、一日と生活困窮した人の話を聞きまくったせいだ。 長期の連休が日雇い労働者を追い詰める。ゴールデンウィークとお盆休み、それに年末年始。特に年末年始は寒さが追い打ちをかける。 …

たかが成人式、されど成人式

たかだか成人式のためにお金と休みを使って地元に帰るなんてバカらしいとしか思えなかった。卒業アルバムも重くて捨ててしまったし。 コロナで成人式が中止になってぽっかり心に穴があいたとの新成人。その傷心がボクにはよくわからない。だけどニュースにな…

まとまらない「地域福祉の理論と実践」の話

はるか昔に福祉の専門学校でクラスをもっていたことがある。 お金のために教えていた。一度目の逮捕のときに三週間収監された結果、無断欠勤となり、結果100万円以上減俸となってしまった。家のローンもある。養育費もある。年収を埋め合わせるためのダブ…

白昼夢

コロナ禍の象徴のひとつアクリルボード 原宿留置での苦い思い出がよぎる あの日、面会室のドアを開けると部下が3人座って待っていた アクリルボード越しに対峙したボクらは誰も何も話さない 話せない 一言でも言葉を発してしまったら自分がどうなるかわから…

PrEPの脅威

年末に友達とゲイバーに行った。 「あの人死んだんだって。実はエイズだったらしいよ」そんな話題が出た。 (おっ!きたきたー) 「近頃多いらしいねえ。身近にいるでしょう?」 案の定ママがふってきた。 ちょっと誇らしげに「オレ、キャリアですよ」って言…