ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

ホームフル映画『ノマドランド』

 『ノマドランド』という映画を観た。

 亡き夫との思い出を宿したバンに乗り、日々を過ごす女性の一年を追った映画だった。大きな事件は何も起こらない。悪い人も出てこない(というか彼女の周りには親切な人ばかりだ)。ホームレス支援の仕事をはじめる一年前だったら「退屈な映画だったなあ」そんな感想になったかもしれない。

 気ままな一人旅というわけではない。人が生きていくにはお金がかかる。稼がなければいけいない。Amazonピッキング、キャンプ場の清掃、レストランの厨房…車中生活を続けるため彼女は日銭を求め働く。

 何も起こらないけどとてもスリリングだった。ぎりぎりのところで生きている彼女の生活は病気ひとつ、パンクひとつで途切れてしまうそんな崖っぷちジャーニーだから。鑑賞中「このままでいい。いいことも悪いことも何も起こらないで欲しい」ボクはずっと願っていた。

 周りの人たちの愛情(具体的サポートの提案)を振り切り、夫の想い出とともに閉ざされたまま生き続ける姿はとても意固地に見えて共感できない。だけど理解はできる。それは彼女の生き様だから。生き方は変えれるけれど、生き様はもう受け止めるしかない。

 かつての教え子に「先生はホームレスになったの?」と聞かれた主人公は「わたしはハウスレスなんだ」と訂正した。そうだよね。誰もがどこかにホームを持っているはずなんだよね。この映画は、ホームレスでもハウスレスでもなく、ホームフルに生きるひとりの人間を描いた映画だと思う。

 

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 親切に用意されたやわらかいベッドよりも窮屈な車に居心地の良さを感じる彼女の態度はホームレス支援あるあるの場面ですね。