収監ダイアリー③
釈放が近づくとみな本面に呼び出される。本面とは保護観察所の職員との委員面接のことだ。この面接から4週目の木曜に仮釈予定者は転房となる。釈放間近な受刑者専用舎房に移る栄光の花道が開けるというわけだ。
Dちゃんがいる。前例に習い本面から四週目の本日木曜に転房してしまうと予想し、もう会えないだろうと昨日名残惜しんでさんざん別れの挨拶をしたDちゃんが今日また運動に出てきている。「なんなんだよ!昨日じゃなかったのかよ」とショックを隠せず大きく歯がゆがる可哀想なDちゃん。こういうイレギュラーは普通にけっこう多い。こういうイレギュラーがボクらを必要以上に強くさせる。やさぐれた顔つきが板につきはじめたDちゃん。きっといい男になるんじゃないかなあ。
「位置について、よーーーーい…」までは聞こえている。クラウチングスタートのポーズで身体中の筋肉をぷるぷる震わせながらピストルの音を今か今かと待ち続ける辛さ。ここからの一週間は長いだろうこと想像に易い。有期刑者みなが通る道であろうが切実で圧倒的で前例のない時間だ。
「高ければ高い壁の方が登ったとき気持ちいいもんな♪」とさり気なく口ずさんであげたらひどく睨まれた。一日も早く出たい者に対して『終わりなき旅』はそぐわなかったらしい。
Dちゃんの不安定がうつったように空がゴロゴロと唸りだした。そろそろ梅雨がやってくる。雨の季節だ。
いただきもののポストカード。なつかしい。