ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

MTさんへの手紙 その7

拝啓 本日昼食に「どんどろけ」とやらが提供されました。鳥取名物らしくMTさんを思い出しながら食べました。はたしてこれが正しいどんどろけかはわかりませんが、ゴーヤチャンプルのゴーヤぬきみたいでうまかったです。3月、年度末になると決算の都合でしょうか刑務所でもいつもと違う品目(メニュー)が続きます。

ごきげんいかがですか。もう春ですよ。
手紙と本をありがとう。
「デフヴォイス」読んだよ。福祉の世界で二十年近く働いてたけど自分の知ってることなんかわずかだということを教えられるばかり。日本手話が日本人ろう者としてのアイデンティティになるなんて考え及ばず、手話なんか世界共通にすれば便利なのに」とか平気で言ってたのが恥ずかしいです。生来性の障害と中途障害の違いのか、障害をアイデンティティとして主張する感覚はメンタルヘルスの分野ではなかったなあ。幻聴と妄想を失ったらボクがボクでなくなってしまうとかいう精神障害者なんて会ったことないし。どこか回復という意識が当事者、支援者、家族にあるからなんでしょうね。もっと知見を広めなければと思わされました。
ここは病舎だし障害者も多くなります。全盲の方なんかもいます。どうしても好奇心がおさえきれず「何をなさってきたんですか」と(親分に聴くみたいになぜか変に改まった敬語で)聞いたりして。彼は食い逃げの常習でした。人生いろいろです。

もらった手紙に「@@@に就職して後悔はない。今は今で充実している」という言葉があり、うれしいのと寂しいのとアンビバレントな感情がうずまいてしまいました。別れた恋人の幸せそうな姿を素直に喜べない屈折に近い。何周か回って今は「たのもしい」にたどり着きました。MTさんのことをたのもしく思っています。

ボクの方はそうですね、語れない過去のある男のダンディズムへのあこがれもありますが、ちょっと柄じゃないんですよね。厄介なジョーカーたちについてはさらしていくつもりです。
逮捕されたとき手錠をされてパトカーに押し込められて「あーオレの人生終わった」と絶望で真っ黒だったにもかかわらず、その身動きとれないなかで「ああやっと終わった」というほっとしたような解放感みたいなものも同時にあって…もちろん捕まりたくなかったんだけどね。ただあの感覚を思い出すと次の新しい人生はいろいろつまびらかにできるところは隠さずに生きていった方がいいんじゃないかと。
「この人、前科で不治の病で可哀そうで大変なんだから」と思ってもらうことで普段の不遜な態度とちょうどバランスがよくなるんじゃないかと期待もしています。まあいやだったらわざわざ近寄ってこないだろうしね。

覚せい剤の話を少し。
「人と人とのつながりが再使用を防ぐ」とかいうけれど、それって効果あるんですかね」というMTさんのクールな視点に♡ぽちっ。実際はどうなんだろう。
ボクはまだ回復のスタートラインにも立っていないので体験として語れない。
この前みた夢の中では、薬物依存の家族会で家族に対し回復者としてしたり顔で「時が来るんです。やめ時があってその時が来たらやめれるんだと思うんです。ただそのやめ時ってのは一人だと見逃しやすく、同じようにやめようとしてる人の中にいると「今だ!」って気づきやすいんです。だから自助グループが大事なんです」と高らかにうたってました。(すごいでしょ。夢なのに。このセリフ使えると思っておきてすぐメモりました)。
覚せい剤を一度でも使ってしまったらその後の人生はもう一生綱渡りです。クスリをやめて三日目でも十年目でも同じです。一歩踏み外せばそこは奈落。だから長い綱渡りの途中にはちょっと一息つけるオアシスみたいな居場所が必要になります。長くやめれているひとってこのオアシスをたくさんもっているんだと思います。そのオアシスに気づけること、なければつくっていけることが回復のキーになる気がします。それが人とのつながりが再使用を防ぐってことなんじゃないかなあと。
「クスリをやめるやめない」「渇望に勝つ負ける」という二者択一に問題を焦点化するんじゃなく(もちろんこれは無視できない命題ではあるけれど)、あらがいがたいものへ対峙することで胆力を鍛え、人生、生き方をとらえなおし、できれば変えていければいいなあと。それがアディクションからの回復の醍醐味だろうし、こうでないとアディクトになったかいがないように思えます。
ちなみにボクのやめどきは「今」なんだという気がします。別にいい子ぶるつもりはなく。理由としてはこれ以上おちた姿が想像できないから。クスリをつかっていたときはいつか捕まって仕事もくびになって刑務所かなあとうイメージがありました。悲しいかなある程度今の状況は想定内でした。次にやってしまってまた収監されるなんて怖すぎる。今やっと怖いと思える状況になれました。おちた先のわからない怖さが「今」がやめどきだと思わせてくれます。

クスリの話、ほんの少しのつもりだったのに…クスリってこわいね。
今日のところはこの辺で失礼します。今回もしがみつくような手紙になってしまいました。また近いうちに。いつもいつもありがとう。              

   敬具

 

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鳥取県人もあまり知らない鳥取名物どんどろけ

 

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デフヴォイス