ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

アニバーサリー

六年前の五月の最終土曜日の早朝だった。新宿のとある有料ハッテンバを出たボクに待ち伏せしていたパトカーが近づいてきた。
ハッテン場の前で出待ちするパトカーって、海へとぺたぺた不器用に這っていく生まれたてのウミガメを容赦なく貪るカモメみたいで胸糞悪い。ちゃんと足を使って働け。いつも舌打ちして見ていたが自分が狙い撃ちされる立場になるなんて想像もしなかった。
ヤバいと思った時にはもう遅かった。慣れた手つきで二人の警官がバッグの中身をチェックしようとする。バッグの中のポーチには(もちろんボクの体の中にも)クスリが入っていて万事休す。「礼状を出して欲しい」と静かに抵抗した。令状がだされるまで絶対にここから動かないと決めて、警察官との押し問答の約五時間。公園の鳩みたいにどんどん増えてくる警察官。物珍しそうに見ていく歩行者。キメキメの脳みそで乗り越えるは本当につらかった。一年分の根性をあそこで使い果たした気がする。土曜だしもしかしたら令状が出ないかも、出たとしてもこんな長時間拘束するような逮捕は不当になるのではないかという根拠のない期待にかけて…無駄だった。結局令状が出て、矯正的開帳。ポーチから出てきた白い結晶物は簡易検査で覚せい剤と判定される。直後、遠くから近づいてきたあのパトカーの警報音と赤いライトは二度と忘れることはないだろう。

あの時、もっと地味目な服を着ていたら…
あの時、誰かの後に店を出ていたら…
あの時、次の待ち合わせの時間をもっと遅くしていたら…
あの時、タクシーをうまく捕まえてたら…
あの時、全部使い切ってしまっていたら…
クスリを使っていなかったら、やめていたらとは一切思わなかったので、これははきっと後悔であって反省ではない。

屈強な警察官に挟まれてパトカーに押しこめられながら「オレの人生終わった」と絶望した。同時に「ああやっと終わってくれた」と解放された気もした。だからなのか今でもあんなに嫌いなはずのパトカーのサイレンを聞いたり赤いライトをみたりすると、ふらふらっとクスリを使いたくなってしまう。焚火の炎に飛び込んでいく羽虫の悲しさ。
五月の最終土曜日。忘れたい記憶ほど覚えているもんだ。

 

f:id:ultrakidz:20200530113744j:image

最後までボクを護ってくれようとしたマスターピースのバッグ。