ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

ギフト

 Give judgment-判決の言い渡しを英語ではこういうらしい。

 さて日本の裁判での判決は被告に対してなにを与えてくれるんだろう。期待したところでそんなにバラエティーに富んだギフトはない。無罪か有罪、有罪なら実刑か執行猶予か、その程度のバリエーションである。そして一度、被告となってしまえば、有罪ならばもちろん、無罪であったとしても、待っているのは世間の冷たい目である。裁判という存在そのものが日本においては非日常であるがゆえ、疑わしきは罰せずであるはずなのに、火の無いとこに煙はたたないと皆煙たがる。農耕民族の性なのか近代社会になった今でも村八分文化はしっかりと踏襲されているようだ。

 ボクが覚醒剤で逮捕されたときは、なるべく速やかに波音立てずことをすませてほしかったので法廷では判決だけが言い渡される簡易裁判を選んだ。実際に裁判自体は5分とかからなかった。前科持ちになることは社会人としての強烈な変化である。以前の自分にはもう戻れない。熱された金属が元素配列から変わってしまい全く別物になってしまうような絶対的変態化とも言えよう。今の日本において罪を背負うことは隠しごとをもつ人生を意味する。クローゼットゲイで隠しごとに慣れていたボクでさえも、また別人になんないといけないのかと少しうんざりした。

 

 そんなボクとは対称的にもう何年も裁判で戦っている人がいる。今日その裁判の報告会がオンラインで開催された。通称「ラッシュ裁判」。

 「悪いとわかって輸入しようとして、さらに裁判で争うなんて遵法意識がどうかしてるんじゃないか」そんな辛辣な意見もあるそうだ。気持ちはわからなくもない。自分もかつてはそうだった。覚醒剤で捕まるまでは覚醒剤が罪であることについて、罰を与えられることと依存症の回復との関係について何の疑問も持たずに生きてきた。人生って当事者になるまでは気づかないことの連続だ。

 世間が当たり前としている事象に違うんじゃないかと物申す。これは生半可な覚悟ではできない。だからこの「ラッシュ裁判」からは被告のヒデさんと弁護団の人生をかけてる切迫感がひしひしと伝わってきた。(ちなみに偶然にもこの弁護団の先生は自分の裁判の弁護人だったそんな縁がある)。傍聴した立場からコメントを言ってほしいと頼まれ「いいよ」と即答したのは、かつての自分の投影も少なからずあるだろうが、やはり共感が大きかったせいだ。

 

 とはいったものの何を話せばいいんだろう。覚醒剤とラッシュを比べてラッシュの無害さを訴えたところで、そもそも世の人は覚醒剤もラッシュも経験したことがある人は少なく、響くはずもない。第一、覚醒剤を使っていた人の言葉という世間のバイアスを覆すほどの説得力のある材料(見た目、知識、倫理観…)を残念ながらボクは持ち合わせていない(まあ欲しいとも思わないが)。

 主観を捨てた客観的データをどう伝えていければと意気込んではみたものの「覚醒剤は10日くらいは身体に残って尿検査でも陽性反応がででしまうけれど、ラッシュの使用で尿に反応なんて出ない。アルコールだって二日酔いってあるのに…」話しながら、なんか違うなあって思った。これは自分じゃなくても話せる。

 自分に話せること。…結局主観にもどる。

 「覚醒剤もラッシュもセックスドラックだ。だけど覚醒剤はセックスを越えて生活に食い込んでくる。ラッシュにその力はない。セックス時の使用にコントロールできるってことは依存性はないんじゃないか?」こういう話だったらいくらでもできるそうだ。ラッシュを使ったことのある人といえば、多分ほとんどゲイであろう。世間を当事者にする仕かけ。できることはなんなのか。もっと仲間が必要だ。

 

 個の話をすると、ボクは覚醒剤を使ったことも、捕まったこともすべての経験を今ある自分の血肉にできているという自負はある。後悔はないし、これでよかったとすら思っている。だからといって、そのうちいい風に変わっていくからと被告のヒデさんにリタイアを勧めようとも弁護団にタオルを投げる提案をしようとも思わない。おかしいものをおかしいと主張するドラスティックな姿勢を支持し続けたい。そこには矛盾はない。「I」と「We」、「You」と「They」。なんとなくだが分別がついてきた。今、はっきりといえるのは、この裁判の有罪判決は絶対におかしい。そのことだけだ。

 

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コメントの時なんて呼んだらいいですか?って言われて、逡巡した結果「ツイッターアカウントの淘汰でお願いします」と言いました。顔出ししてもまだ本名はちょっと...