ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

HALTの謎

 今回の薬物治療プログラムは「あなたのなかにある引き金」ってタイトル。なんかサイコサスペンス映画っぽい。そこにハルト(HALT)は登場してきた。「ハルト」にはゆかりがある。子供の名前の候補の一つだった。温かい人と書いて温人(はると)。うん、いい名前だ。ボクの苗字との相性はよかったんだが、配偶者の苗字とのマッチングがいまいちだったため結局泣く泣く却下になってしまった。(一応離婚して子供が相手の苗字になったときのことまでリスクマネジメントして名前は考えていた)。少しセンチメンタルな幕開けのプログラムだった(うそです)。
 テキストではクスリを再使用する内的な引き金として、HUNGRY(空腹)/HAPPY(幸せな気分)、ANGRY(怒り)、LONELY(孤独)、TIRED(疲労)に注意すべしと喚起している。その頭文字をとってHALT(ハルト)。ハルトには気をつけろ。要するに、使わないためには「腹を空かすな」「腹を立てるな」「孤立するな」「疲れるな」ってことらしい。

HUNGRY(空腹)
 たしかになあ、空腹はやばい。このプログラムでもさんざんぱらクスリについて話すんで、帰りについ使いたくなってしまうってことがある。そういうときは大概腹が減っている。お腹からのグーグーは心のSOSなんだと思う。だからとりあえずプログラム前には満腹で参加するように注意している。満腹って大事。
 たまにぐわ~んと津波みたいに襲ってくる渇望のときにはいつもサイゼリアに駆け込む。そして、辛味チキンとミイラの風ドリアとエスカルゴのオーブン焼きとペペロンチーノをかっ食らう。ジャンキーだったボクにとってサイゼリアは何日も寝ずにやりたおしたあと、体力を回復させるための栄養補給の場であることに加えて、締めの儀式的意味合いをもつ聖地だった。ここに行けばこのクールはもう終わりだという気分になれた。だからどうしても使いたくなったときには先にサイゼリアに行き、満腹になって気持ちだけ締めてしまう。ボクなりの対処法だ。
 まあキメセクをするには「腸腸腸E感じ♩」にしておかなきゃいけないんで、内臓の縦のラインを空洞化させておく必要があるから何か食べたら使えなくなってしまうってことで「食べる」は最もてっとり早く効果的回避法なんです(結局また下ネタかよ)。

HAPPY(幸せな気分)
 きっと覚醒剤にはまる人ってカリカリ残業して休日出勤も厭わず24時間戦います的日本人なんだと思う。休みの日には自宅のソファーでゆったりくつろぎたいなんていう血中アメリカ人濃度の高い人には大麻とかマリファナが向いてんじゃないかなあ(ノーエビデンス)。だからハッピーな気分と覚醒剤ってのはなんかあわないような気がする。とりあえずボクには当てはまらない。幸せなときは「もうその幸せだけでいいじゃん」って感じ。

ANGRY(怒り)
 ボクには怒りの才能がない。怒らないという訳ではないがとにかく持続しない。まあいいことなんだと思う。怒ってる人を観察したりするとつい冷静になってしまう。今の世の中見渡す限り怒れる人だらけ、怒りの達人ばかりだ。そういう人達に支えられて今日もひょうひょうと生きれている。とにかく怒ってるときに覚醒剤に使うとバッド入りそうでやなんです。気持ちも体調も万全に整えてから使いたい派なんです。

LONELY(孤独)
 なんかのドラマのキャッチコピーで「寂しくない大人なんていない」ってのがあったけど孤独ってあたりまえだと思ってるからこれも自分には関係ない気がする。孤独ってなるもんじゃなくて身の内に抱えるもんでしょう。寂しくたって寂しい人になる必要はないし、孤独だって孤独な人になる必要はない。つまりは孤独はいいけど孤立は避けようってこと。
 確かに薬をもってたら王様気分を味わえるだろうけどそんなのかりそめだし、孤独向きの体質じゃない人だとそのあとで目の当たりにする現実との落差がもっときついかもって思う。孤独から逃げたくて覚醒剤に走ってもさらに孤独になるだけ。わかってるんだけどね。

TIRED(疲労
 ただ疲れたってときじゃなくて、達成感を伴う疲れは要注意だ。ご褒美的に使ってしまいがちだった気がする。24時間働くビジネスマンでしたから。こころあたりありすぎ。「よくがんばったじゃないか」って自分への大儀名分までしっかりついてしまうからなあ。やばいよ…。

 プログラム中こんな風に語ってみたら、自分のことを研究されつくしてますねって言われた。スマープって「自分ふしぎ発見」って言い換えてもいいと思う。自分大好き人間のボクとしては面白く過ごせる時間だ。ただ問題がひとつ。いくら自分のことがわかっていても覚醒剤はやめられないという事実。これだけ勉強したんだから「もうつかわない自信がついた」じゃなくて「今度こそうまく使えるんじゃないか」って風に思ってしまう。ほんと懲りない自分ふしぎ発見だ。
 そんな風に好き勝手に覚醒剤への揺れる熱い想いを語っていたら、最後にノンケ君が「なんかそんなに覚醒剤を楽しんでる話を聞くとうらやましいなあと思って…オレはあんま楽しいって(思って)使ってこなかったし…。覚醒剤のよさをまだ知らない気がする。…オレもアナルセックスしてみようかなあ」ってとんでもアンサーを!自分の話を聞いて「クスリをやめようと思いました」って言われるよりも正直嬉しいと思ってしまった。自分も誰かの役に立っているという実感。いい時間を過ごされてもらった。なんかこんなんでホントすみません。

 

f:id:ultrakidz:20200613024356j:image