ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

OJT(オンザジャンキートレーニング)

誰しもその道で一人前になるには努力が必要だ。
知識を学び、技術を習得し、価値を手に入れてこそいっぱしと呼ばれるようになる。
覚せい剤も例外ではない。ボクがそれなりに覚せい剤を使いこなせるようになれたのも、巧く手ほどいてくれたスーパーバイザーの存在があったおかげだ。

覚せい剤とは何なのか。
どのくらいの量が妥当か。
追加にはどのくらい時間をあければいいのか。
一日の限界は。
相場価格。
注射器、ストローの使い方、保管について。
効果的なデトックスとは。
禁忌。
サイバー警察がはってそうなサイト、それに隠語。
キメてるやつの見つけ方に見分け方、要注意人物のトリアージ方法。
職質されないために。
捕まった時の対処法。
まだまだ、まだまだある…いつかまとめてみようと思う。

ボクのスーパーバイザーだった彼は、やめる方法とネタ元について以外はなんでも教えてくれた。そのどちらともその時の自分は興味がなかったのでとくに不都合はなかった。ネタ元について口をとざしていたのは彼がリスクをきちんとわかっていたからだろう。

ジャンキーが注射を打てないようじゃ話にならない。血の滲むというか、血を垂らす訓練だった。
病院でソーシャルワーカーとして働いていたときには、看護師が血圧を測ったり、技師が検査装置を使いこなしたり、介護職がトランスファをスムーズにやっている姿をうらやましく見ていた。ソーシャルワークってそういう目に見える技術がないので、純粋にあこがれみたいなものがあったんだと思う。だから注射がサクサク打てるようになったときには本当に嬉しかったなあ。ベテラン看護師だって自分の腕には注射打てないでしょう。
「君、針中(ハリチュウ)だね」ともよくいわれた。(針中とは注射を打ち込むときに一番ドーパミンががんばっちゃう性癖の持ち主のことをいう)。ジェットコースターがゆっくりと一番高いところまで登っていき、急降下する直前、がたんと音がして止まる。その刹那の瞬間がたまらない。そんな感じだ。
針がおりる瞬間の胸の鼓動焼き付けろ♪
ヤワなハートがしびれるここちよい針のシゲキ♪
ヒットソングの歌詞にもなってるくらいだから珍しくない体質なんだと思う。
まあとにかく、注射に関しては、我ながらのみこみの早い生徒だったと自負している。学ぶって楽しい。

そのバイザーは「あの有名人ともやったことがある。あいつは歌手のくせにあぶりでやってたやがってんだ。“のどに悪い。注射にしろ”とマネージャーと一緒に叱ってやった」なんて思い出を語ったりしていた。真顔で話すんで笑えなかった。人間的には悪い人ではなかったんだと思う。
どこかの予備校(覚せい剤ではなく大学受験用の学校)で教えてるっていたいたが真偽の程は分からない。「生徒に手だしたりしないの?」って冗談できくボクに彼は「クスリをやったことのないやつとは絶対に使っちゃダメなんだ。一度やったら必ずもう一回ってなるだろう。それはもうわかりきっている。確実なんだ。二度やったらもうそれは依存で中毒なんだから。一度目を使う人間がいなくなればいつかは薬中もいなくなる。覚せい剤自体がなくなる世界になるはずだ」と壮大な夢を語った。ヘビーユーザーだったくせして心の中にはアンチ違法ドラッグの魂をもっていたようだ。その熱意に啓蒙された部分は今もボクの中に残っている。
ルートを独自に見つけてしまってからはだんだんと疎遠になるってのもよくある話だ。自立である。今は連絡先もわからない。顔もよく思い出せない。
指先とかいつも震えていたし、血管もよろよろだったし、ちゃんと生きているかな。あんな風になっちゃうと、一回捕った方がいいのかも。収監生活で一度身体を健康体に戻した方がいいんじゃないか。なんて大きなお世話を巡らしながら…今どうしているんだろうとたまに思ったりもする。
もう会うことはないだろうけど元気でいて欲しいなあと心から願う。ボクは元気だよ。
Have a nice flight ///

 

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覚せい剤を使う前にはいつもトイレに行きたくなる。この現象を「わくわくうんち」というと教えてくれたのも彼だった。