ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

弁護士の先生への手紙 その3

拝啓 梅雨の週末、先ほどまで吹いていた風がぴったっと動かなくなりました。湿ってべたつく空気をうちわであおぎながら手紙を書いています。
先日は面会に来ていただいてありがとうございました。
運動が中止になってクサクサした気分で作業をしていたところ、拾う神のお二人でした。去年の今頃、新宿署の留置でお会いしたのが初めてだったと思います。アクリルボード越しのやりとりにデジャヴをおぼえました。

本の差し入れもありがとうございました。宮部みゆき谷崎潤一郎、一息でよんでしまいました。「名もなき毒」面白かったです。前に勤めていた施設で共同の冷蔵庫に入れてあったペットボトルに洗剤が混入された事件があったんですがそのことを思い出しました。その事件、警察介入となりましたが、だれがやったかわかっていたにもかかわらず、結局立件できませんでした。それ以降施設内のいたるところにカギをつけなければいけなくなって、施設全体の空気が殺伐となってしまい…。毒がまわるってああいうことをいうんだなあと。自分のことも振り返って、自分の罪も悪意はなかったにしろ皆には毒になってるんだろうなあと。めぐりめぐって反省です。
谷崎はまず表紙の「谷崎潤一郎」のフォントのでかさにびっくりです。タイトル「痴人の愛」の四倍はあります。文豪たるゆえんですね。
ここではもう読書が趣味を通り越して特技の域に。そのうち中毒になりそうです。

先生方が来てくださった次の日の運動のとき、他のメンバーが「昨日面会誰だった?」と聞いてきて(みんな目ざとい!)、「弁護士の先生」と答えると「へー!」と驚きます。大概、裁判が終わってしまえば弁護士さんとは関りが途絶えるもんなんですね。珍しがられます。ここでは受刑者同志いろいろな話をします。ほとんどが過去の話。警察、検事への不平不満など。なるほどとうなずけるような理路整然とした異議申し立てから、ただの難癖だろうとうなずきかねるいちゃもんの類までさまざま。それに交じって代理人であったはずの弁護人への文句を口にする人もいます。きっと逮捕の時ってのはハートがギザギザにとがってしまい、さわるもの皆傷つけてしまいがちになるんでしょう。矛先が弁護士に向かうこともあるようです。先生方にとっちゃあうやってられないでしょうが。因果な商売ですね。そんな話を聞きながら、自分の場合はこうやって裁判が終わってからもわざわざ面会に来ていただけることを本当にありがたく思っています。
感謝の気持ちさえも覚えておこうと思わないと忘れてしまう。これは僕の性格の欠点のトップ30くらいに常時はいっています。ありがとうと言い続けたいんでまた手紙を書きますね。

止まっていた風が動き始めました。今日の夕焼けは何色を見せてくれるんでしょう。お二人のところにも気持ちのいい風が届いていますように。              敬具

 

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