ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

ITさんへの手紙 その9

拝啓 猛暑が続いてますね。汗ばんで乾いて、また汗ばんで乾いて、うるし塗のようにくりかえして肌もテカテカです。すえた匂いのもとを探し当てるように自分の腕をくんくん嗅いでいる自分にはっと気づくと悲しくなります。

ITさんはお元気ですか。松葉づえからの解放、両手の自由化おめでとうございます。文字通り地に足をつけた生活に戻られたんですね。「こころからうれしい」という手紙の言葉とてもいいですね。自分が自由になった気分です。
今後のリハビリは?晴れは?痛みは?大事にしてくださいね。
来年もう一度オペがあるみたいですが、今はまだ左足に内包してあるビスやらチタンプレートやらうまく取り出せた際には、ぜひ祝杯をあげましょう。けど自分の体に金属が埋め込まれてるってなんかおさまりがわるいですよね。僕は小学校の時、歯列矯正をしていてあのギラっとした金属のブリッジがどうしても嫌でよくペンチをつかってはずそうとして怒られてました(そりゃそうだ)。ITさんも似たようなところあるんで、無茶しないでくださいね。

いつも差し入れの本ありがとうございます。及南アサはショートショートが特によかったです。「金輪際」はどうでしたか。いただいた手紙のどこかに五寸釘というフレーズが頭に残っていてこの本に興味を持ちました。
おっと!今日は祝日でして、今おやつが配られました。カップのくずきり(黒糖蜜入り)。こころからうれしい(笑)。食べてしまうのがおしいい。だけど目の前においたままだといつまでも落ち着かないんで、つるっと食べてしまいます。
さて話を金輪際の車谷長吉にもどします。長吉さんは芥川賞が欲しくて欲しくてでもどうしてもとれなくて、そして何故か直木賞が手に入って、無念のまま数年前に亡くなったらしいですね。(他の受刑者に教えてもらいました)。芥川詮衡委員全員の藁人形に五寸釘で「天誅!死ね!」と丑の刻参りって凄みがあってワクワクさせられます。芥川賞を受賞したらこの作品は生まれなかったと考えると詮衡委員グッジョブ!
ジメジメした空模様にあわせて、このところ手に取るものは長吉さんをはじめ、谷崎、乱歩と鬱積したものばかり。思い切り背伸びができず猫背になります。読書自体がマゾスティックな行為ですので仕方ありません。またオススメありましたらぜひ。

そういえば面会についてわざわざ電話で問い合わせていただいたようでかたじけありません。面会はやっぱり無理みたいですね。初犯向けの民間刑務所だったらまた違うんでしょうが、医療フォローのニーズのある受刑者は受け入れてもらえないらしく仕方ありません。

さてITさんがアンチバースデー主義だとは知らずに軽はずみなお祝い失礼しました。「モノをくれる人に悪い人はいない。だけどお金をくれる人には注意しろ」という信念からついあげたがり病が出てしまいました。まあ塀の中から本の贈り物ってそんなに機会ないでしょうからめずらしがって受け取ってもらえればと思います。一応厳選の十冊です。

蝉が鳴きはじめました。断末魔です。先週はまだ真っ暗な土の中にいたはず。今週は木の幹にしがみついて、来週にはきっと土の上にひっくり返ってるんでしょう。そして蟻たちにずるずる引きずられて、また土の中に連れ込まれてていく...。そちらの蝉は元気ですか。
手紙を書いていても、とにかく暑い。溶けた体が汗になって、蒸発して、雲になって、雨に降って、流れ着く先は海。そう今日は海の日。木々の揺れが波の音にきこえます。今年の夏はどのように過ごされる予定でしょうか。いつかの岩手の夏も暑かったですね。あの数日の旅はなんだかとても印象に残っています。いつかまたああいう旅をしたいです。
よい夏をお過ごしください。いつも感謝しています。             敬具   

 

 f:id:ultrakidz:20200229014916j:image