ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

あの日

わりかし真面目なタイプなのでSTIの感染については定期的にチェックするようにしていた。そもそもコンドームなしのセックスってのもやったことがなかったし…。

ところが、覚せい剤をつかったセックスではなぜか感覚が鋭くなりゴムの感触がすごく邪魔に思えてどうしても「生」にこだわるようになってしまう。絶対音感でなく、絶対性感の持ち主になってしまうのだ。それだけ感覚が鋭くなるんであればゴム付きでも十分楽しめるという具合に変態化できればいいのだけれど、そううまくはいかない。あらためてセックスって体じゃなくて脳でやるもんなんだなあと思う。そういえば最中に「どこが感じる?」て聞かれて「脳」って答えてしらけさせたこともあったけ。

「生」は好きでも「病気」は嫌だってのが人の心情。リスキーな行為をした後の検査は本当に怖い。腕はやばいくらい注射痕だらけだったから保健所やクリニックには行けない。検査キッドを買いだめて自己検査していた。どうでもいいやと思えれるくらい堕ちてしまえれば楽だろうにここでも変に真面目だった。

ジョーカーしか残っていない相手の手札を引かなければいけない絶望さえも覚せい剤は麻痺させる。いつしかシラフでは検査できず、最後にはキメてアゲた状態でしか現実に向き合えなくなっていた。注射を打ち込んだときに漏れ出る血液をチェッカーに浸して結果を待つ。あの日、それまで見たことのなかった薄紫の二本線が浮かび上がってきたのをよく覚えている。二本線だと「偽陽性」なんだって。なんだそれ?そんな半端な結果しかだせないようなどこの馬の骨ともわからないチェッカーの精度なんかあてにならない。自分をはげます。これまでその馬の骨で安心していたくせに。あとは逃げるようにやりまくった。

保釈中にHIV陽性の確定診断をうける。色々考えて大体の感染期間、感染場所、感染相手が絞られる。なんだかおなかの子の父親のあたりを捜すやんちゃな女の子のよう。目星はついた。どう切り出すか頭を抱えた。保釈中だし時間は限られる。彼は二十代、ゲイ向けのビデオ男優。兼業勤労苦学生。やっぱ知らぬ存ぜぬってわけにはいかず(やっぱりここでも真面目さが発揮され)、悩んだ末「STDへの感染判明。至急検査されたし」と電報みたいなメールを発信。結果、ノーレスポンス。やるべきことはやったと自己完結し、アドレスは抹消。クラウドの果てに。今思うと彼自身そうなのかもしれないと気づいていた気もする。何かしら治療につながってればいんだけど。

偏見かもしれないが、覚せい剤にはまったゲイのほとんどがHIVなんじゃないかと思っている。ほぼ100に近い気がする。(HIVへの偏見でも、覚せい剤への偏見でもなくHIV覚せい剤の親和性への偏見なので誤解なきよう)。色々周りの体験談を聞くと感染時期はなんとなくわかるけど、場所も相手もはっきりしないってのがスタンダード。そして皆、ジョーカーを引いたことよりも引かせたかもしれないことへの罪悪感を語る。共感。やっぱゲイって愚かで優しい。

このジョーカーはいろいろなことを教えてくれる。これからも教えてくれそうだ。ジョーカーって、ババ抜きでは忌み嫌われる存在だけど、ポーカーや大富豪なら最強のカード。とらえ方、ルールによって価値は変わる。大切にといったら違うんだけど(投薬で容赦なくウイルス殺してますし)、自分の一部であるという事実をそのままうけとめて強さに変えていく力を持つことができるようになりたい。

さて免疫について勉強してみようか。

 

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