ＭＴさんへの手紙 その１１

六月がスタートしました。青空です。まったくもっていい天気です。どんっと建つ屈強な塀の何倍も高い欅が刑務所をおおうようにわさわさ揺れています。まぶしすぎる空に燃える緑が目に痛い。

お元気ですか。手紙と本が届きました。ありがとうございます。
おめでたいニュースがいくつかあったようで、まずは彼氏ができたとのこと、おめでとう。有言実行！さすが。あやかりたいなあ。
お相手は業界外の方ということで世界も広がってよいと思う。いつか直接色々と聞かせてもらえればと期待しています。それまでは継続しておいてくださいね。なによりめでたしです。

収監後、刑務官、監察官、施設の精神保健福祉士など法務省関係のさまざまな人に面接されることもうかれこれ十回近く。成育歴、犯罪歴、病歴、家族歴などに加えて恋愛歴やセクシャリティについてまで聴取されます。面接を繰り返すうちに自分の人生をダイジェストで語るのもうまくなってきました。ところが前回「薬物とセックスとそして特定のパートナーとの関係についてこれからどうしていこうと考えているか」という問いにはつまってしまい…うまく答える必要なんてないんだろうけど固まってしまった。固まったまま一分以上無言だったんじゃないだろうか。
ボクの脳には「ＳＥＸ」＝「ＤＲＵＧ」が焼き付いてしまっています。こんないかれた人間が特定の誰かとまっとうなパートナーシップを保ち続けることははたして可能なんだろうか。突きつけられた気分です。
つきあう相手とはクスリを使わないという自分ルールが正しいのか間違っているのかはわかりませんが、キメセクの相手を彼氏以外に求めてしまうのでそれがバレたときには「浮気」「薬物使用」のダブルパンチで彼氏を傷つけてしまうことになります。もちろん「自分のことを思って覚せい剤を誘わないでいてくれたんだ。なんてできたやつなんだ」って思ってもらえるはずもなくほどなくみんな立ち去ってしまいます。
女性は更年期を過ぎたらつきものがおちるように性欲がすっかりなくなるって何かの本にのってましたが、どうもゲイはそうもいかないっぽいです。体質改善くらいじゃまだまだでゲノム総とっかえの進化を目指さなければならなさそう…。
もしくは折り合うか。こんなもんだ、そんな程度だとの折り合いを達観させるか。だけどなあ。「君のことは好きだけど、君とのセックスは折合いなんだ」なんて主張を受け入れてくれるような奇とく、かつまっとうな人なんかいるんだろうか。考えすぎかなあ。

さわやかな陽気なのに性の話が続くけどかんべん。
「どうしてボクは覚せい剤との相性が抜群だったのか」を一般論に置き換えて考えてみます。「どうしてゲイとドラッグの親和性が高いのか」と。
まあ環境要因としてはゲイにとってセックスがカジュアルなものであるということがあげられそうです。ちょっとしたリフレッシュ感覚で女性がエステとかホットヨガとかに通う気持ちに近いんじゃないんだろうか。セックスの頻度が高い。だから自ずとドラッグにも遭遇しやすいんだと思います。
でもどうして多くのゲイがやめられなくなってしまうのか。一説によると覚せい剤を使用した人の一割が依存症になるらしいです。つまりハマりはしても潮時がちゃんとわかる人の方が多いってことです。ただノンケに比べてゲイはだんぜん引きずる率が高い気がします。
ここからは個人的見解（つまりノーエビデンス）ですが、ゲイ（それも特にクローゼットゲイ）にとって男性同士のセックスは性的アイデンティティの解放の場であり、仮面を外せる唯一の機会であって、そこに覚せい剤の薬理作用が加わるとなると、それはもう爆発的な刺激、快感になるんではないかと。ゆえに虜になりやすいんじゃないかと。
抑圧されたものが大きければ大きいほど薬の効き方も強くなるのであればゲイは何十年もかけて薬の効果を最大限に享受する準備をしているといえるんじゃないでしょうか。
効果が個人によってどのくらい異なるのか単純に数値として比較できればいんでしょうけど、そんな人体実験はやれるはずもないですしね。まあ被験希望の薬中はたくさんいそうですが（笑）。
今日のところはこんなもんでどうでしょう。

もうひとつのおめでとうはＯさんの退所の件です。自分が彼女を担当していたときは、自分は彼女の父親でも、ましてや母親でも、主治医でも、先生でもないのに、いつの間にかその全部の役目を背負っているような気分になってしまいあっぷあっぷだったなあ。無事ここまでやれたのは本人もだけどＭＴさんの頑張りがあってこそだと思います。本当にごくろうさまでした。引き継いでくれてありがとう。
もらった手紙からはＭＴさんの仕事へのプライドがひしひしと伝わってきます。頼もしいです。また新しいＭＴさんと見せてください。期待してます。
いつもありがとう。よい初夏をお過ごしください。

目標の見える化実践中。