最後から二番目のスリップ
ボクは再発したことがない。一度も治っていないからだ。治っていないのに再発しようがない。
出所してから一年半とりあえず薬は使っていなかった。
強い意思を持った上での断薬ではなく、ただのモラトリアム的中断。だから状況が揃い、スイッチが入ってしまえばきっとやるだろうなあって覚悟していた。そうならないための努力はしなかった。
周りを安心させるため、アリバイ的にNAのミーティングには通っていたが、いつか使ってしまうであろうことはわかっていた。だから使いたい気持ちで苦しんでいる誰かにやめておけとは言えなかったし、スリップしてしまった誰かの姿に安心していた。嫌なやつだ。
「まだ再使用していない」は、「いつか使ってしまう」と同じである。「まだ」は、「いつか」に変わる。期待どう...、もとい予想どおり11月にあっけなくスリップ。衣替えをしていて、冬物のジャンパーを羽織ったら、手品のように袖からみっちりモノが詰まったペンがシュワッと飛び出してきた。(隠しておいてそのまま忘れてしまった奴が出てきただけなんだけど)
神の啓示。
おぼしめし。
ハイヤーパワーのご褒美。
ただのバチなのかもしれない。
嬉しくもありがたいバチだった。
美味しくいただいた。
仕事をクビになった。
やっぱりバチだった。
「まだ」と「いつか」の狭間を生きるのは非常に辛い。それなのに「もうやめる」とはどうしても断言できない。だってやっぱり今回も気持ち良かったし。薬は裏切らないことを確認できたし。バチじゃやめられないですね。太陽と北風。
一生やめるって果てしなさすぎて圧倒される。だから後もう一回だけやってやめることにする。ラストフライトは、今回のスリップみたいに出合頭的なやつじゃなく、とびっきりにプランだてて打ち上げたい。うってつけの日をじっくり待ってみたい。その日は明日かもしれないし、十年後かも、もっと先かもしれない。とりあえず今日ではない。とても楽しみだ。
最後のスリップを夢見て「今日だけ」をシラフで生きる。
JUST FOR TODAY!