ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

親への手紙 その31

お元気でしょうか。
ゴールデンウィークも終わりいつもの日常が始まりました。
四日休んだだけなのに袋折りの作業で指がつりそうです。
この一年で指の腹と掌が大分厚くなった気がします。
手紙と本をいつもありがとうございます。それとIWさんへの贈り物も。
IWさんへの贈り物をボクがいい顔をしないことについて、私たちの気持ちも汲んでくださいと手紙にかいてありましたが、ボクのことを思ってやってくれていることは十分わかっているつもりです。感謝しています。
ただ、IWさんからお気遣いなさらぬようお伝えくださいと再三いわれてるので気になってしまうんです。一応気にせずにお受け取りくださいとはお伝えしてるんですが…。

さて前回の手紙の「あなたはいつも話し合いをさけていた」という言葉に、正直またか
…と。だけど一年半がたった今、あの時のこと(あの時期、話し合うことがそんなに大事だと思えなかったのはどうしてなのかということ)を振り返ってみました。
思うままに書きます。

まずボク自身、あの頃は、逮捕についても、HIVについても、ゲイだということについても、そして、これまでとこれからの生活についても、何をどう伝えればいいのかわかっていませんでした。また言葉にしたところで冷静に聞いてもらえるとも思えず、どうせ感情のぶつかり合いでケンカにしかなんないだろうと。ケンカはしたくありませんでした。感情を出し合うことで前にすすめることもあるのかもしれませんが、体も精神も限界ギリギリだったし、そもそも感情のぶつけ合いってのが苦手なタイプですし。
「話し合い=責められる」という風に思い込んでいた面もあるかと思います。自分が悪いのは十分にわかっているし、責め続けられるのは嫌でした。責めさせてあげられなくてすみませんという感じです。
だけど今も多分責められることに対しては素直に耳を傾けることはできない気がします。きっとプライドの問題です。「仕事での成功」「独立した生活」が自分の誇りだったから、そこを「あなたは完全に破綻していた」などの一言で言い切られてしまうと腹が立ってどうしても受け入れられないんです。「お前は無能でひとりじゃやっぱり何もできない人間なんだ」とすべてを否定されて、これまで働いてきた二十年をすべて打ち砕かれたような気分になるんです。
煎じて詰めれば「度量が小さい」の一言におさまる話なんですが、避ける以外のやり方であの時期を切り抜ける術を知りませんでした。

ボクには生きていく上での絶対的自信みたいなものー自分らしくなくてもそのままでも大丈夫であるという安心感に近い何かーが欠落しています。だからここぞというときに踏ん張ることができません。波風が立つような場面は自分の気持ちまでざわついてしまうので苦手です。決定的な状況はできるだけさけ、致命的な言葉には近づかないようにしてきました。奇をてらったような言動でけむに巻いてホントのところはぼかすのが癖というか、もう生きる手段になってしまっています。なんとか変えていかなければなあと思っています。

今のこんなどうしようもない状況の自分に対しても見捨てずに手を貸してくれている人たちがいるという事実はボクにとってひとつの自信になりそうです。大事になくさないようにしなければと思っています。
とりあえずもっと他人から理解してもらいやすい自分でいられるように努力します。
これがあの頃を振りかえったボクの今の気持ちです。

さてゴールデンウィーク前後に出してもらって手紙と本がまとめて届きました。ありがとうございます。
新聞の切り抜きと写真はまだ検閲中なので見れてませんが、二人とも健康診断で異常がなかったとのことで安心しました。
今年も母の日は何もできずにすみません。父の日も…。

日に日にあたたかくなっています。今日は気温上昇のため特例で上着を脱いでの作業でした。刑務所で特例ってのはめったにないことでしてよっぽど外は暑いんだと思います。布団のダニも目覚めはじめたようで今朝起きたら両腕のあちこちにぷくっと膨れる赤い痕がとてもかゆい。
泣いても笑っても、何もしなくてもあと一年。あせらず一日一日を大切に過ごすだけです。二人とも体に気を付けてお過ごしください。

 

 

f:id:ultrakidz:20200416133952j:image

めずらしくセンスの一致した親からの差し入れ本。

「希望というものが本質的に持っているどうしようもない悲しみに心かがちぎれそうになる。それはまるで止まることのない爆撃と略奪の中で巣も卵も失った火傷だらけの鳥がそれでも平和を願って鳴いているように聞こえるのだ」(本文より)