ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

仮面(カリメン)の男

運動中「687番」と呼び出される。「何かやったんじゃねーか」とのからかいに「いや心当たりないっす」と言いながら心の中はすわ分類面接かと色めき踊る。
刑務官の「一名、分類連行します」との大声に「ビンゴ!ヨッシャ!!!」とこころの中だけではしゃぐ。そのまま分類面接室へ連れられる。
面接室の隣の部屋でアンケート用紙への記入を指示されるも浮足立ってしまいペンを持つ指がふるえる。日付の欄に生年月日を書いてしまう。称呼番号が出てこない…平常心平常心。
その後、刑務官と面接の作法の練習を行う。「礼」「直れ」「直れというまで頭はあげない」「椅子の右側に立つ」…これは先行く受刑者たちから教えてもらっていたので想定内。「本番はもっと声を大きくはっきり出すように」と注意を受ける。これもいつものことで想定内。
続いて面接についての説明がなされる。茨城なまりの刑務官。(これは想定外)。今日の面接は仮面ではないとのこと。一部執行猶予法の対象者への出所前予備面接であり、この面接の結果次第では仮面が省略されるとのことであった。(なるほど、じゃ実質仮面と同じじゃん)。
ほどなくして面接に呼ばれる。入退室の作法は練習の成果を発揮することもないほどケアに近い感じでいちいち刑務官が口頭でフォローしてくれる。
面接は女性の保護観察官と部屋で二人きり。関東保護更生局所属とのことで保護観察所の職員ではないとの自己紹介。名前も名乗ってくれるがはっきり覚えていない。さっきのアンケートに沿った内容を聴取される。
成育歴、犯罪歴、出所後の生活について、家族について、薬物について…。もう何度も話したことなので使用開始についてなどすらすらと他人事のようにきれいな言葉を使って話せた。
覚せい剤は気持ちいいの?」と聞かれ「いいえ…気持ちいいという言葉では全く足りません」なぜか自慢げに答えてしまう。他にも「誰と使っていたの?」と聞かれ「一期一会をポリシーにしてるので特定の相手はいませんでした」とか。面接官は、この「一期一会」のフレーズをいたく気にいったようでその後も面接中多用されて少しうれしい。
覚せい剤のくだりについては、いつもつい熱が入ってしまうのでトーンを抑え気味に注意注意。TPOTPO!
「保護会から出た後はどんな生活を考えてますか」
「う~ん。ひとり暮らしがいいのか、別の方法があるのか一人で決められない。周りの人と相談しながら決めていこうと思います」
「あ~じゃまだ決まっていないってことですね」
「ま~そうですね」
具体的なプランを聞かれているのに心情を吐露してしまった…。
最後の質問。「こうなってしまった根本は何でどこから道がずれたんだと自分で分析していますか?」答えにつまる。…たぐりたぐっていけば、もう生まれたときまで遡るんじゃないだろうか。「…」。答えれないというのが一番正しい答えなような気がしてそうする。

面接官の机の下のライトが赤く点灯し、刑務官が呼び出されたことがわかる。すぐに刑務官が部屋に入ってきて、はじまりと同じように、小声で(だけどバレバレの)指示をうけながら最後に「帰ります」と一礼し、退室する。

病舎の独房に帰ったらもう十二時。どの部屋も食事は終わり、空下げも済んでしまっている。冷めてしまったキムチばら炒めを食べながらひとり面接の振り返りを行う。

午後の作業がはじまると今度は保護会の説明会があるとの呼び出しで、雑居のおじいさんと二人連行される。工場からも対象者が集められ計24名。病舎の舎房着はこのよたよた系のおじいさんと二人きり。どんな風にみられているか気になって工場の人たちの顔なんかは全く見れない。パイプ椅子に座って説明をうける。

保護観察所のえらく背の高い男性が前に立ち「仮釈放されたらまずあなたは何をしますか」と問いかける。その背の高い男性が刑務官に「あててもいいですか」と確認をとる。嫌な予感がしたのでぐっと下を向く。こういうのあたんだよなあって思っていたら「じゃあ…あなた」って予感的中で指名される。一番端っこなのに…病舎だってわかるだろうに…他に23人もいるのに…。
仮釈されたら何をするかって…「観察所に行くために電車にのります(と答えるのが正解だと思います)」。続けて何名があてられたが、みな「同じです」と。ずるい…。けどまあ正解だったらしい。色々話していたけどとりあえず観察所が一番伝えたかった事は「ここを出たら電車にのってすぐ観察所に来い」ってことだったらしい。

次は保護会の話。酒はダメだ。働け。金貯めろ。代わりに住民票はおいていいよ等々。とにかく厳しそうだなあという印象。24人中11人が保護会経験者らしい。さすが累犯刑務所。細かいことはその施設によって違うっていわれるととたんに興味がうすれてしまう。

最後にハローワークの就労支援担当のおじさんの話。だんだん福祉っぽくなる。自分は利用するつもりはないが社会資源のひとつとして集中を切らさずに聞きとおせた。
各自20分ずつ、充実の60分。
部屋にもどったら14時過ぎ。
副担から「今日は一日いなかったなあ」って。「(作業できなくて)かせげませんでした」と軽口をいっておく。
色々長い一日だった。
つかれた。
考えるのは明日にしよう。

 

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カリメン違い