ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

プリズナーシンドローム

府中刑務所の仮釈放は毎週水曜日と決まっている。
病舎の単独室収容者だとその一週間前の木曜に仮釈者専用の舎房へと転房となる。
その転房の告知は前日の水曜日の集団運動後になされる。他の収容者を刺激しないためだろう。

今日は水曜日。病者のメンツはボクの仮釈がもうそろそろだと分かっているんで、運動中にこちらがいくら「まだだと思う」といっても、「いよいよだね」と肩をたたいてきたり、「お元気で」と握手を求めてきてボクのもしかしてをそそのかす。その気になってしまったボクの意識は部屋へ戻り作業をしていても常に廊下側。担当刑務官がいつ声をかけてくるかワクワクしてしまう。「明日、朝一で転房だから荷物を整理して準備しておくように」といつ告げられても「はい!」とポーカーファイスで答えれるように今か今かと待ってしまう。
官本が回ってくるのが遅くて、明日転房だからないのかも。
ガリの呼び出しが来なくて、明日転房だから免除なのかも。
明日の作業の予定の説明がなくて、明日転房だから言われなかったのかも。
刑務官や外の懲役のふるまいや視線すべてが転房にまつわる何かしらの情報をはらんでいるように思えてしまいへとへとになる。
昼食を終え、午後の休憩が過ぎたあたりでドキドキはしぼんでいき、作業が終わって材料出し、夕食、空下げが終わり、一日の終了の「点検なおれ~」の号令でやっとあきらめがつく。
「位置について~よーい……」ここまでは聞こえている。クラウチングスタートの姿勢で体中の筋肉をぷるぷる震わせながらピストルの合図を今か今かと待っているつらさ。受刑者みなが通る道なんだろうけど、この体験はボクを強くしてくれそうだ。
高ければ高い壁の方が登った時気持ちいいもんな♪…終わりなき旅か。やっぱ旅だってちゃんと終ってほしいけどな。
とにかく今日はオレの日じゃなかった。
けどこの体験もよしとする。
もう起きたことはすべて良いこと。
愚直に受け入れよう。
そして誰かの幸せを祝おう。

 

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ある受刑者の一番長い日