ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

ある日の診察

医務診察。
窓際の席だったのですきま風で寒い寒い。八王子医療刑務所の記憶がフラッシュバック。寒いと言えば八王子。八王子といえば寒い。ぬるま湯生活で平和ボケしていたがここは刑務所だった。病舎からでるときは気を引き締めなければいけない。
長椅子に座り待機する。自分の番号が呼ばれる。

診察室に入り、地面の赤いラインにつま先をそろえて姿勢を正し、番号氏名をいって椅子に座る。この部屋はあたたかい。
いつもの医者。この先生なんかゲイっぽいんだよな。しゃべり方はノーマルなんだけど、ファンキーな髪形に手入れされたラウンド系の髭。これだけじゃ決め手にかける…そうか手首だ。手首の動きが微妙にやわらかい。うん!これだ。明日の運動の時にみんなに確認してみよう。ゲイだと勝手に決めつけて勝手に楽しむ。ゲイ特有の習性。

問診が始まる。
「調子はどうですか」に「快食快眠快便です」と返すとややうけの中笑い。
「だるいとかないですか」「ありません」「HIVの数値ですが12月14日採血分がCD4、240、ウイルス量も減っているし良好でしょう」と予想通りの説明。
続いてC型肝炎について話が移る。
「肝機能は落ち着いてきたようです。だけどウイルスはいるようでこれについての治療は出所後…あっ出所のご予定はあるんでしたっけ?」
「はい、いちおう」
「それでは出所してから通院先で急性か慢性かの判断も含めてスクリーニング検査をやって方針を相談していってもらうことになります」
「はー」
「これはいらぬお世話かもしれませんが、C型肝炎の治療に関しては一度だけは保険適応となります。一度なのでどのタイミングでやるかは主治医になる先生と相談してください」
「一度罹ったら体制がついてかからないとかじゃないんですか」
「ちがいます。何度も感染する可能性はあります。えー、これまで輸血の経験は?」
「ありません」
「じゃ感染については…(カルテをめくりながら、きっと罪名をチェックしてるんだろう)薬物使用時の注射の針か性行為での感染の可能性も考えられます」
「クスリとセックスはほぼセットだったのでどちらかはわかりませんが、きっとHIVに感染したときに一緒にもらったんだと思います」
「そうですか。今後についてはどのようにしていくつもりかはわかりませんが、HIVについては毎日かかさず薬を飲み続けていく必要があります。できそうですか」
「はい。長生きしたいんで」
「では他になにかありますか。何でもいいですよ」
「CD4はどのくらいを目標にすればいいんですか」
「200あれば大丈夫でしょうが、普通…これは感染していない我々なんかだと500から1000あるんで、やっぱり500が目安になります」
「500かー」
「ただ一度CD4が極端に少なくなったりした人の場合だと上昇するのには時間がかかります。それは年単位でみていくことになります」
「時間薬ですね」
「まああせらずに」
「あとは、今のボクの状態だと障害年金の対象になるのか、なるんだったら何級くらいに該当しそうなんでしょうか」
「それは全くわかりません」。
間髪入れず看護師とふたりそろって示し合わせるかのように。答えることに何らかの不都合があるんだろう。答えられない(答えてはいけない)たぐいの質問だったようだ。
いらぬお世話の説明が欲しかったなあ。専門医なんだから全くわからないってはずはないだろう。ぶつぶつ…。来た時と同じように赤いラインにつま先をそろえ番号氏名を「ありがとうございました」で診察終了。病舎メン6人連なって戻る。あーまた作業か。

 

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