ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

親への手紙 その10

ご機嫌いかがですか。窓のそとも気配もすこしピンクがかってきました。刑務所でも季節はめぐるようです。足の指のしもやけもカイロの低温やけどもこちらに来て数日で完治しました。この先、夏が来てどんなに暑くてもこの冬を懐かしむことはないと思います。この冬はそのくらい強烈な体験でした。
留置所を三か所、拘置所、そして刑務所も2か所となると収監慣れ、収容施設ズレしてしまったようで毎日、快食快眠快便と快調にすごせています。とはいえすっかりなじんでいるわけでもなく、25日だったりすると、ほんとは給料日だったのになあ…って前の生活への執着も顔をのぞかせます。
ここに移送になって約一か月が経とうとしています。前回も書いたかもしれませんが、こちらでは病舎と呼ばれる舎房の単独室に収監されています。「舎」というとなんだか動物園の「オオカミ舎」とか「ゾウ舎」とかを連想してしまいます。さしずめここは「人舎(もしくは病人舎)」ってとこですかね。ここの単独室の人たちはほとんどがHIV既往者でCD4が200から350です。数値が350を超えて安定すれば一般舎房へ、200を下回れば八王子へ行くことになるそうです。僕の場合は、初犯なのでこの中で異動というわけでなく、静岡か黒羽にいくことになるらしです。
今いる部屋は二階で窓からは外の景色が丸見えです。自室で過ごす時間の多い身の上にとって、ここが八王子との一番の違いです。すぐそばには病舎よりもずっと高い木が生い茂ってそこでは野鳥がワサワサ元気です。このワサワサ鳥の鳴き声で毎朝目覚めています。朝は6時45分起床。八王子よりは一時間位早起きです。八時から16時40分までは室内で日課(運動、入浴、食事、新聞等)と休憩をはさみながら、ひとりで作業をしています。作業はハンガーのシールはがし、ミニクリップづくり、封筒の折の作業などをあてがわれています。ひとりで黙々とやっている様子はさびれた焼き鳥屋の開店前のしこみに通ずるわびしさがあります。二月の報奨金は37円でした。少しでももらえることはうれしいです。
やることがあると一日が過ぎるのがぐっと早いです。反対に休みが長く続くのが苦痛です。今日は月に二度ある矯正指導日。作業は免業となり教育プログラムに沿ったスケジュールの一日です。余暇時間ではないので通信教育や改善指導、教育指導、クラブ活動などか組み込まれています。が!病舎単独室収容者は部屋から出ることはなく(これらの教育の対象ではなく)、30分程度の教育番組の録音が放送で流れるのを聴講した後は自主学習(読書か手紙を書く時間)となるので普段の土日と代り映えしません。
何度も手紙を読み返しています。きっと二人は、力強く断定した言葉で断薬の決意を示してほしいんでしょうが、どうしても今は言えません。クスリについて勉強すればするほどもうしません信じしてくださいって簡単には言えなくなるんです。もちろん一生ものの病気なのでやめるための努力は続けていこうと思っています。わかってもらえればなあと思います。
昨日ここにきて初めて掃除をしました。フエルトのようなほこりがもこもこと固まって子猫ほどの大きさに。とことん散らかした後に徹底的に磨き上げるとそこなとたんになじみの場所に変わります。部屋にいる自分が随分しっくり呼吸しはじめました。
不自由に感じることも多いですが、今の感覚を出所後も持ち続けることができれば、いちいち小さな幸せをかみしめることのできる幸福な毎日になるんじゃないかと思います。忘れずにいたいです。
来月のゴールデンウィークが始まる前には手紙を届けられるようにします。来週はSちゃんの誕生日ですね。みんなにとって温かい4月になりますように。

 

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