ＩＴさんへの手紙 その１３

拝啓　師走です。元気ですか。
ボクはといえばボチボチやってます。ボチボチ歩いて顔を上げたらもう年末でした。ついこの間、冬の挨拶を書いた気がするんですがはやいもんだなあ。
去年の八王子医療刑務所は寒いという字も震えるくらいにツンドラでした。おかげでＨＩＶウイルスもおとなしくなるしだいで心身ともに鍛えられました。ここ府中は部屋のスチームが日中稼働しっぱなしなのでぽかぽかしています。ガリ（理髪）のためランニングシャツ一枚で廊下へ出ていき「今何月だ！お前は馬鹿なのか？」と怒鳴られてしまいました。季節感を失っています。
さすがに屋外は寒く（当たり前）、運動中じっとしていると凍えてしまいます。運動場を気の合うメンバーと歩きながらしゃべりながらぐるぐるぐるぐる、拘禁症になった動物園の動物のようです。とにかく八王子にくらべればここは獄楽です。まああそこもあるいみ極楽に近い場所ではありましたが。
八王子医療刑務所は来年昭島市に移転する予定です。その影響で以前一緒だったメンバーと懐かしい再会をすることができました。ここのところ府中の病舎は増員ぎみで運動もこれまで十人いない時期もあったのに今は二十人近くに倍増しています。出所していく人、拘置所、他の刑務所から来る人、回復して工場へおちていく人、出所したのに戻ってくる人。出会いと別れを繰り返しながらゆるくつながりを保つ立派なコミュニティです。
そして部屋に戻ればまたひとり。今日の韓国風肉じゃがが意外にいける。ひとりきりかみしめるおいしさは、瞬く間に寂しいにかわります。
十二月は半年に一回の部屋替えで今回は畳部屋です。「なんだか座敷牢みたいでやだなあ」って言ったら「みたいじゃなくて名実ともに立派な座敷牢だからね」と的確な突込みが。「オレは今、私宅監置されていた精神障害者の立場を体験しているんだ」と前向き（？）にとらえています。
座り生活だと、ちょっと動いただけで塵や埃がきらきら舞って体のまわりを取り囲みます。今日みたいな日差しが明るく射し込むよく乾いた陽気だととくに。土産屋なんかでみかける中に家があって揺り動かすと雪が舞い上がるおもちゃの置物。あの中に入っているようです。きれいとはいえないこともないんですが、塵じゃなきゃなあ。ちりも埃もボク自身も逃げる場所がない状態。やるせない。
まあこんな気持ちは雑巾でふいて洗ってゴボゴボという音とともに排水溝に流しさるまでです。さらば！
来月で折り返し。とはいっても過去の反省と将来の希望を今の自分の足元でつなげる毎日を送れているかといえば…なかなかそうもいきません。釈放の解放感だけを追い求めている自分が大きく存在していることは否めません。跳び箱に向かう助走中のようです。もう跳び箱しか見えていないというか、人生の目的がその一点に凝縮されています。飛び越えた後に「いやー案外楽勝だったよ」とか言いそうで怖い。
年末くらいは厳かに一年を振り返りたいと思っています。
実は昨日、手紙を書こうと机に向かってこの一年でＩＴさんから届いた手紙を読み返していました。けっこうなボリュームでいつの間にか消灯の時間になってしまい本日ＩＴナイト第二夜。
術後の足の回復具合はいかがですか？眠れてますか？仕事は順調ですか？出会いは？もろもろの調子は？ＩＴさんの２０１７年はどんな一年でしたか。来年はどんな一年になりそうですか。また聞かせてください。
酉年。ただれた羽のまま、なんとか生きながらえることができました。来年は戌年。犬死は避けたいです。ＩＴさんの幸福と幸運を祈っています。ハッピーーホリデイズ！一年間ありがとうございました。　　

寝室兼ダイニング兼トイレ兼書斎権ワーキングスペース