MTさんへの手紙 その3
前略 本を送りました。獄中からの一足早いクリスマスプレゼントです。ここでは各自貸与されたスーツケースに入るだけが私物保管限度量になります。私物といってもボクの場合はほぼ本だけなんですが。それだけでスーツケースが臨月間近の妊婦のおなかのようです。張り裂けてしまう前にどうしても処分しがたい専門書を中心に送り付けることにしました。
収監されたての頃は時間もあるいしいい機会だとこの手の本ばかり前のめりでよんでいたのにここのところ手に取ることもとんと久しく…。夏あたりに他の受刑者からフルニトラゼパムとニトラゼパムの違いについてきかれてしょしょっと調べて以来かなあ。最近じゃそれすら面倒でパラフェリアって何って聞かれても寄生虫だよって答えたり適当です。(みんな精神医学を血液型占いみたいに思っていて、自分に都合いい情報だけインプットするんできちんと説明するのが馬鹿らしくなる)。とりあえずここで専門書を読んでも知識ばっか横に広がって実践を通して上へ伸びていく実感がえられない。「もどかしいい」⇒「やってられない」⇒「もういやだ」を経た結果、名人伝ではありませんが「そんなのあったっけ?」の境地に。いまや受験に関係のない教科のテキストのような扱いです。ここにあっても宝の持ちぐされになるんでゆずろうと思ったわけです。
ワンポイント解説
「DSM5 精神疾患診断のエッセンス」~八木亜紀子先生の研修での課題図書でした。「診断」について「診断すること」についてソーシャルワーカーも精通しておくべし!
「心の病いの治療のポイント」~これも八木先生のおすすめ図書。とにかく読んでみてって感じです。精神保健分野で働くときの基本的な(だけど忘れがちな)知識と技術と価値が書かれてあり戒めになります。
「アディクション臨床入門」~対談部分がすこぶる面白い。心理士もソーシャルワークできないとって言葉を聞いてソーシャルワーカーも心理士的アプローチできなくてはって思わされました。
「その後の不自由」~十代の女子利用者にてこずっていたあの頃に出会っておきたかった本です。電話相談の心得にもよさそう。
「くすりにたよりすぎない精神医学」~U先生と一緒に読書会するといいかも。
「摂食障害との出会いと挑戦」~前に一緒に働いたことのある先生の名前がのっていたので付き合い程度の気持ちで買ったものの読み応えあり。「患者であることを終わらせたい」なんて名言がどっさりの高カロリー本。
改めて読み返したけど、いやーゆずるのがおしい。本を送るなんて野暮なことをしてしまいましたが、こういうやりとりを職場内でもしておくべきだったかもなんて思っています。
ではではよいクリスマスをよい年越しを。