ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

MTさんへの手紙 その2

秋雨前線が天気図から消えません。やまない雨はないと言いますが、やまない雨が降り続けています。
元気ですか。先日ボクは血を吐きました。鮮血です。おののきました。どうやら痔の再発です。おしりからでも血は血であってそれは衝撃的でした。今はトイレ前には便器に向かって二拍一礼。力まず排便するって難しい。毎回満身創痍です。女性は毎月これに似た思いをしているんだからそりゃ強くなるわけだ。

今は府中刑務所の病舎とよばれる舎房(建物のことです)の二階の単独室(独房のことです)にいます。部屋はそちらの施設と同じくらいのスペースです。トイレも簡単な流しも中にあって、ベッドと小机でいっぱいになってしまいます。何もかもがくたびれたしつらえですが南向きで採光もよく敷地の端の舎房なので塀の向こうの景色が開けて見えます。
病舎は一階から三階まであって一階は医療度の高い人たちが寝たきりで収容されています。二階三階はそれほど重症ではないけど、一般工場で懲役することはできない程度の病人受刑者が集められています。二階だけで80人近くいるんじゃないかなあ。10人程度の単独室メンバーはほぼHIVのゲイ。雑居は要介護状態の高齢者ばかり。これに軍隊がかった刑務官が加わったカオスの世界です。実にはりのないカオスです。テストステロンの充満した本来あるべき刑務所の姿はここにはありません。
数年前まではHIVだと一律病舎収容だったそうですが、今は免疫値によって処遇がかわります。数値がよければ一般受刑者と工場勤務になり、悪くなれば医療刑務所行きです。ボクの場合このまま病舎でしょう。(免疫値はそんなに短期間で変動するものではないんで)。
毎日平日は朝七時半に起床し、朝食後8時過ぎから十六時近くまで部屋でひとり内職作業です。封筒の折りと糊付け、ココカラファインのレジ袋に県民共済のチラシの封入、100円ショップとかにありそうなミニクリップの組み立てなどB型的作業を白昼夢に浸りながら黙々と。誰かと話したりできるのは平日の屋外運動の三十分だけです。だらだらくっちゃべってます。

お薬関係のゲイばっかりだし、きっかけはどうであれ堕ちてきたプロセスは似たりよったりなんで話は通じやすいです。ただそれでもなかにはとんでもない案件も存在します。気に入らなければ茶碗を投げる(おかずも入ったまま)、夜中に叫ぶ(もちろん昼間も)、とにかくもめる…そんなアンタッチャブルがいつも必ず一人います。精神科なら自傷他害のおそれありで医療保護入院ものです。間違いなく隔離制限されるでしょう。
そして「えっ!あんなの外にだしちゃっていいの?」というような輩も刑期がくればシステマチックに出所(社会復帰)していきます。絶対的な国家権力をもつ刑務所でさえ囚人を拘束し続けることにシビアにかつデリケートに対峙していることがわかります。周りに迷惑をかけるかもしれないという善意の鎖でいつまでもどこまでも患者を縛り続ける精神科医療とは違うなあと。自由ってなんだろう。不自由の立場で熟考しています。どちらがいいとか悪いとか線引きしそうに(したく)なるところですが、ここではやめときます。深みにはまりそうな謎は謎のまま今は心の澱に沈めて醸成を待とうかと。
MTさんの担当利用者と家族と病院、それとMTさんの納得できる道がみつかればいいですね。誰かにとっての解決は他の誰かにとっては問題発生になることもあるので、みんなが同時にスカッとするのはすごく難しいんだろうけど。仕事への未練めいた内容はこの辺でやめときます。

夏休みを使って@@先生が面会に来てくれたときに、自分の事件については前の職場では鉄壁にガードされているようだと教えてくれました。自分としてはこういうものは必ずもれるものだと思いきっていたので意外でした。風評被害が心配していたので安心しました。それから三人の管理者にも負担をかけてしまって…。変に強くさせてしまっているようで申し訳ないと思っています。
MTさんにも「ハッテン場」だとか知らなくていいはずの知識をつけさせてしまったり、必要のない部分の根性を鍛えさせたと思っています...。心が偏った筋肉のつき方をしていびつな形になってしまわないようにたくさんのまっとうな人とつきあってください。

さて、本の差し入れありがとう。最近は犯人がいてそれを捕まえる(その途中にたいてい数人死ぬ)タイプの本ばかりだったので、その流れを断ち切ってくれて助かりました。三冊だけだとMTさんの好みがわからないのでまた追加を期待します。ここでは本だけが楽しみなんです。よろしくお願いします。(ここまで言われて断り切れるんであればそれはそれですごいと思う)。

八王子ではベッドの中で寝ぼけまなこにスマホを探したりしていましたが、今はネットから解放され両手も自由化されました。芸能情報が恋しくもありますが情報は少なくても想像力でカバー。想像力を肥大させた自分の考えを食べて生きる思考のスカトロ状態です。
落ち着きのないナチュラルボーンハイパーアクティビティ~黙っていても頭の中はいつも嵐~を改善したく読書への集中がそのリハビリの一環です。

受け取った手紙を読み返しています。その中に「正しい支援はないけど間違った支援はある」という言葉が。オレが?こんなかっこいい言葉を?どんな顔していったんだろう。我ながら恐ろしい。
長くPSWをしていると間違ってないことをしているだけでは物足りないと感じるときがいつか来るはずです。もちろんそれで一生(PSW人生)を終えて満足する人もいるのでしょうが(どちらかといえばそちら側の方が多いんだろうけど)、MTさんは必ず物足りなくなってしまうタイプです(どーーん!)。今はMTさんとは上下関係ではないですし、対等なのでともに正しい支援とやらを目指しましょう。

ここにいると厳しい環境に身を清められたような気がして悟りがかったことを口走ってしまいます。この前の手紙にも「やさしくなりたい」なんて柄にもないことを書いてしまったし。「獄中という閉鎖状況における思い上がりの心理」と耳に痛い指摘が今ちょうど読んでいる「宣告」という本のなかにありました。
「外の世界からの情報は乏しく、他者との交流はない隔離された状況では人間は自分自身と対話を交わすより方途がなく、結局は自分に都合のよい面だけを肥大させていく。自分ひとりが世界の中心にいて、他人よりも一段も二段も上にいるという思い上がりの、名づけてみれば拘禁性誇大妄想が~」と続きます。
心当たりありすぎる。うっかりもう更生しきってるように思い込んでいる自分に気づきます。俗にまみれた社会に出てからが勝負なんでえらそうなことはそれから口にしろというのはわかってるんですが、かといって絵空事になる可能性のある明るい未来は語れませんともいえず、なんだかこんな統合失調ぎみた手紙になってしまいます。

いやー長い手紙になった。伝えたいことがたくさんあるというより、伝えることに飢えているということが自分でもよくわかります。切迫感あったでしょう。ごめんね。
発信回数の制限があって(月五通)、サクサク返事できず心苦しい限りです。
外はしみったれた雨、雨、雨。この雨がやんで台風が過ぎれば秋もぐんと深まっていることでしょう。秋は好きですか。MTさんの幸福と幸運をこのやまない雨(いつかやむであろう雨)に祈っています。

 

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ジョーカーはヒースレジャーがいい。