ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

OKさんへの手紙 その4

広い空にぽつんと雲一つ。おいてけぼりをくらい途方にくれてるように見えます。
今日は建国記念日ということで祝日です。
刑務所の祝日には特配のお菓子が支給されます。今回はMissKateのチョコレートウエハース(11枚)。箱をあけてホイル包みをやぶいたら焼き菓子の香りがふわっと広がり気が遠くなります。なんてことのないただのウエハースなのにこれが悲しいくらいうまくて…悲しくなります。悲しくておいしい…そしてなぜか腹が立ちます。あーーー、アリがよってくるくらい身も心も甘いものでみたされたい。ということで今まさにウエハースの破片をぽろぽろこぼしながら手紙を書いています。

お元気ですか。
冬の刑務所はひと山入りこんだような現実離れした寒さに包み込まれています。先日の雪もまだ溶けていません。あの灰色の塀が俗世とを隔てる結界になっているようです。
といってもここは病舎、ストーブ、スチームのおかげで空調は適温に保たれており、快適とまでは言い難いですが、平和に過ごせています。
病気の具合は(あっHIVの方ですが)一進一退といった感じです。ウイルス量は減ってるんですがCD4値が(これはCD4陽性リンパ球のことで免疫力の目安になる数値のことですが)…いまいちでして、健常者は700~1500くらいあるのに対してボクは200前後をうろうろしています。自覚症状がないんで悪化も回復もピンとこないんですよね。
健康体は失ってしまったけど健康に生きることはできるはず。なんくるないさー。

クリスマスカードに年賀状、それに差し入れ本とありがとうございました。クリスマスカードは加工カード扱いとなってしまいひと晩だけ手元に置いて、翌朝没収となりました。出所時に返却されるそうです。飛び出す3Dタイプだったり匂いがついてたりするとダメなようです。
いつかお礼をしたいと思いながら、また本のリクエストを…。「袋小路の男」と「祈りと叫び」の二冊。(作者も内容もわかりません。ただタイトルに魅かれました)。すみません。

先週も一人病舎の仲間が出所していきました。誰かがいなくなるたびに心が揺れます。動じてしまう自分がいます。荷物を整理して去っている姿を気づかないふりをしてやりすごします。バージンロードを笑顔で歩く友人の幸せを心から祝えない独身OLの心境ってこんな風なのかなあって想像したりしながら…。焦らなくてもその日は向こうからやってくるんですけどね。やれやれ。

休みの日は誰とも接触がないので自分と向き合うようにしているんですが、その自分すら相手になんないときには手紙の世界へエスケープします。それにしても内容のない手紙だなあ。読み返さなくてもわかる。
外の光が差し込んできました。いつもはのっぺりとただ白いだけの壁に、シミやら落書きやらが浮き上がってきます。先人たちのこころの叫びが.聞こえてきそうです。ここに書き出すにはちょっとはばかれるような類の言葉…「ここの職員はバカだ」とか「腹減った」とか「意味がない」とか(あっ書いちゃった…)に交じって「辛」という文字がぽつり。こそっと一本横に線を加えて「幸」の字に。
OKさんAMくんに、それと自分にも「幸」ありますように。いつもありがとうございます。春はもうすぐです。

 

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決して飛び出してはいけない