ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

弁護士の先生への手紙 その2

拝啓
萌え茂る緑のファンファーレが日ごと大きくなります。お元気ですか。
H先生誕生日ですね。少し早いお祝いになりますがおめでとうございます。
先日は、といってももう四か月前になるんですね。八王子医療への面会ありがとうございました。誰かと関りらしい関りをもつ機会は久しくなかったので面会でお二人と時間をかけてお話ができてうれしかったですし、とても刺激的でした。エアホッケーを連続で戦ったあとの心地よい疲労感を覚えました。
差し入れ本もありがとうございます。感謝に浸る間もなくすぐに読みつくしました。元来から依存体質なんでしょうここにいると活字中毒に陥りがちです。今なら生命保険の約款とか家電の説明書とかも楽しめそうです。そういえば、K先生のおすすめの「片想い」って今度ドラマ化されるらしいですね。まあここでは見ることはできませんが。
面会、そして差し入れ本と本来ならすぐお礼のお手紙を書くべきところこんなに時間をあけてしまいまして申し訳ありませんでした。
両親から連絡がいったかと思いますが、2月27日に府中刑務所へ移送になりました。先生方が来られた翌週に告知がされもうバタバタでした。まあバタバタといっても荷物も限られていますし、さしたることもなく気持ちだけがあわただしくありました。
こちらでは病舎の単独室(またも独房)に収容さえています。二階なのでみはらし良好。この開けた景色が救いになったり苦になったり…。そしてこんな刑務所内に漂う鬱積した空気をものともせず敷地内の緑は夏に向けて一心不乱に伸びていきます。そのためたんぽぽなんか咲いてもすぐに刈られてしまってます。あわれにも瞬殺です。八王子に続き、ここは東京なのかと疑ってしまう自然にかこまれた毎日です。八王子の冬がひどかったんで夏はちょいもんだろうとたかをくくっていました。刑務所生活だけあってそうはいかないようです。ゆうべムカデが出没しました。寒さ熱さも嫌ですが虫系も勘弁です。就寝準備前にふと窓のサッシの上の方に赤黒くテラテラ光る物体が蠢いていて…。無益な殺生は身近な人の不幸を呼びそうで生け捕りにして外にだそうとうしたんですが、夜間帯に窓サッシをがたがたやって懲罰くらうのもいやですし深追いできませんでした。まだ六月ですし、夏本番までもっと活きのいい侵入者と遭遇すると思うと寝つきの悪い夜でした。まあこんなのんきな生活です。
こちらでの一日は八王子と違って懲役作業があります。ミニクリップづくりや封筒の折の作業などデスクワークです。ひとりきり内職にせいをだす自虐の詩の幸江のようです。一か月の報奨金は千円弱。ありがたいです。お金がありがたみを知れます。
単調な生活の繰り返しですが、作業があることで曜日感覚がもどってきました。それに作業があると時間が過ぎていくのが早いです。人間が生きる上で仕事(ここでは作業)というのは自己実現というよりは食事とか睡眠とかそういった生理的欲求に近いもんなんだなあと今かみしめています。面会に来ていただいた時にも話題に上がりましたが、ここ病舎二階の単独室メンバーもLGBT8割、薬物事犯者8割、HIVほぼ10と世間でもマイノリティがメジャーに反転します。同じような人たちが同じような袋小路に集まるようです。
刑務所ではよく薬中同志がつるんで悪い影響を与え合うので用心した方がいいと聞いていました。そういう面もゼロではないと思います。ただここだと石をなげれば薬中に当たるような環境ですし、しかも十数人程度の規模なので選り好みしてられません。やめようと思っている人、その気のない人、それぞれ上手につきあっていく必要があるなあと。
薬物事犯者がどうして集まってしまうのか。それは共有できるものがたくさんあるからなのではないでしょうか。薬物に手を出すまでの背景は人それぞれでしょうけど、使い始めて逮捕されるまでの身の持ち崩し方はここにいる誰もが似たり寄ったりな気がします。殺人、傷害、強盗、詐欺なんかのようにドラマティックさがなく、ゆえになんでもお互い共感、同調しやすいんだと思います。まあ実際生々しい情報交換なんかもあって懲役中なのに懲りない面々です。
四か月過ごしてみて今ここでの毎日は誤解を恐れずに言うならば「楽」です。獄楽です。仮面をかぶらずに晒せるというか、スキだらけのまま色々なことに対峙できるというか楽しいと言ったら違うんですが…そう!楽に生きれています。疲れたまま出所後現実社会の荒波に飛び込むわけにはいかないので気分だけでもニュートラルにしておきたい所存です。
ここでは平日だと作業もあり、一日がテンポよく過ぎ去っていきます。その分週末は持て余しがちになります。今日は日曜日。暇で仕方ないから手紙を書いていると思われるのは心外ですが、そういう側面もあります。
孤独で孤立した生活は妄想を鍛えます。最近では太陽や雲の疲れ具合とかが伝わってきます。ホームに出入りする電車の機嫌もわかりかけてきました。もうちょっとで風に揺れる枝葉のざわめきが何と言っているのかききとれそうです。うまく自分を育て上げて、人の気持ちもよくわかる力を手に入れたいです。
先生の幸福と幸運を祈っています。よい夏をお過ごしください。」
敬具

 

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