ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

ITさんへの手紙 その8

前略
お怪我の具合どうですか。
骨折、入院、全身麻酔の手術の知らせに空腹も消し飛びました。手紙を受け取ったのが5月10日。オペは5月8日と書いてあったので読みながら、あーもう終わってる…とリアルタイムで無事を願うことすらできず申し訳なく思っていました。知らなかったとはいえその間お気楽でへらへらした手紙を送ってしまいすみませんでした。塀の外とのタイムラグが骨身にしみます。
ITさんをはじめとして家族や関係者の方々の幸運と幸福を朝夕手を合わせ祈っているんですが、どうもここの塀は高く、厚く、そして暗く祈りを丸ごと飲み込んでしまうようです。今週届いた手紙には無事職場復帰されたとあり安心しています。
僕はHIVと薬物依存という一生ものの病をもっているにもかかわらず、これまで麻酔を使うようなオペを受けた経験がありません。まあしいていうなら歯医者での抜歯くらいなもんですかね。なのでITさんが今回体験したような全身麻酔の大手術の恐怖は想像しかできませんし、リハビリの苦労も正直わかりません。痛くありませんか。
無茶した結果なのか、無茶できなくなった結果なのか追求しませんが、怪我の功名ともいえるのかもしれませんが、今回のもろもろがITさんの心に「あと一年で結婚相手を見つけるくらいの覚悟でスキをつくる」と強く決心させたことは何だか興味深くあります。「覚悟をもったスキ」ってただの罠なんじゃないかとも思いますがこの際気にしないでおきます。ITさんのひっかかりにひっかかる人がそのスキマにうまくひっかかればいいですね。あと一年ということですので、もしかしたら僕がここにいる間にそのおめでたいニュースを聞くこともできるのではないでしょうか。期待しています。
ITさんも手術なんかの場面でまわりが家族に期待する役割について書かれてありましたが、刑務所にいても似たようなことを思うことがあります。ここでは面会は原則、家族もしくは身元引受人(雇用主)に限られるそうです。面会に来ていただけるとのことですが、一応こういう規定があるらしく確認していただいてからの方が確実かとおもいます。また、出所時の身元引受人が家族だと仮釈になりやすかったりもします。(仮釈中は保護司の訪問があるのでうちは両親が商売をしている関係で自宅を帰来先にすることはできません。民生委員にしろ、保護司にしろちょっと守秘義務があてにならないんで…)。当たり前のように家族に負担を課すやり方というか家族にしか責任が担えないようなシステムというか…。安倍首相のすすめる改正憲法案では、家族の相互扶助という名のもと家族のつながりが強調されています。家族のつながりが大切であるということに対しては文句はひとつもありません。ただ、そんなこと憲法でごちゃごちゃいわれることなのかという疑問はあります。
こういう時代の風潮なので、入院、手術の同意、面会、これからはもっと独り身にとってはハードな事態がまっていそうな予感がします。安倍さんの夫人をとりまくドタバタ劇が家族の絆のもとどうおさまっていくのか意地悪な目で見守っています。
さて来週はITさんの誕生日ですね。ってことでおすすめ厳選10冊を送ります。僕の貴重私本から選りすぐってみました。楽しんでください。
ITさんの松葉杖姿が周りの人を笑顔にするとありましたが、これも人柄がなせるもんなんだと思います。ここでも松葉杖の人がいますが、その人はちょっと難ありな人物でして、あまり他の受刑者のことについては書けないのでうまく伝えることができませんが、周りから疎まれているというか、嫌われているというか、あからさまに避けられています。とにかくこういった場で輪にうまく溶け込むことができないとその障害に鞭打つような容赦ない仕打ちがまっています。与えられた10と10の指。使い熟せない銃と10の杖♩杖が笑顔を呼ぶか悪意を呼ぶかは人次第なんだすね。
今日の発信日は毎週月曜なのできっと15日には間に合うはず。
骨がきっちりつながって前よりも丈夫になるよう朝夕祈っています。よい誕生日を。  草々

 

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