ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

ITさんへの手紙 その6

正気もよろめきがちな木の芽時です。桜はしばらく見れないんだろうと思っていましたが、二階のこの部屋からは塀の遠く向こうに自信満々に咲き誇るソメイヨシノを眺めることができます。ぐんぐんと風に揺れて今にも動き出しそうなピンクの塊はナウシカ巨神兵のようです。ITさんはこの春、お気に入りのバイクでどこを走っているんでしょうか。
年度の初めのワサワサに、更年期のモヤモヤと落ち着かない中、手紙に差し入れにありがとうございます。ピアノの切手、桜のはがき、感謝です。ちなみに桜の飛び出す3Dはがきは加工カードとみなされてしまいイチョウの葉につづき一晩だけ手元にあずけられ翌朝没収となりました。出所時に返却されるそうです。受け取るばかりで何も差し出せるものがなく申し訳ない限りです。気持ちばかりですがここでの生活ぶり(生活と口にすることに抵抗がなくなってきました)をお伝えすることで感謝の意になればと。
さて前回の手紙でマニ気味に移送のうれしさを綴った理由は、やっぱり「仮釈放」です。仮釈放についてざっくり説明すると、条件次第(身元保証人、帰住先がはっきりしていること、保護観察が付くこと等)で懲役期間の約25パーセントが刑期満了日から前倒しされるシステムのことを言います。八王子は休養者扱いなので懲役とはみなされず満期まで必然的に在留となります。対してここでの軽作業は一応懲役扱いとみなされるんです。懲罰くらってるんでフルにもらうことは厳しいでしょうが、うまくすれば4〜5か月早く社会復帰できるチャンスが手に入ります。やはり一日でも早く出たいんで移送はうれしいものでした。
刑期の期間によっては八王子にずっとの方がいいという人もいるのかもしれないけれど、両方体験してみて思うことは八王子って長くいる場所ではないなあ(もちろんここもですが)というのが本音です。ここに来てまだ一か月くらいしかたっていないのにもう八王子時代を遠い昔のように語っている。何度も書いたかと思いますが、八王子は昨日と今日と明日が全く変わらない毎日です。この環境下(処方も変わらず、刺激も皆無)だと体調も変わりようがありません。しいて言えば気候が温かくなれば免疫も微上するという程度の期待値。回復させるというよりは悪化させないことに主眼をおいたケアがなされているようでした。だから心身が慣れきってしまう前に、入って三か月が勝負で、そこでテンポよく数値を上げていかないと後は平坦な地獄がまっている、そんな風に同囚からはっぱをかけられ…うまく事が運んでよかったと思っています。
八王子のみんなはどうしているんだろう。彼らはCD4の値が2とか8とかの経験者がざらなんです。気温より低い。「二回発症した」とか「無菌室に入れられた」とか「階段を一歩も登れなくなった」とか、「それでも薬を飲み忘れてしまう」とか、うっかりで死んでしまいそうな、というよりうっかり今生きているっていうタイプの人が多かったなあ。よく考えたらそんな彼らの病気に対する助言によく自分は忠実であれたなあと。いい人たちだった。笑(まだ生きているでしょうが)

日本PSW協会ですが、おかげさまで無事に退会届を提出できました。僕にとっても権利委員会活動はよき思い出です。あそこで得たものを現場で活かしきれていたかいたかというと「?」ですが…。生活も思想も水準が高いほうがおのずと高みにのぼり強い立場でいれる(できているできていないにかかわらず口にするだけでも)ということに気づかず、地元での活動ではいつも怒って煙たがられていたんじゃないかと。そんな反省もありますが、あの活動のおかげでITさんとも出会えました。出会いは財産です。固定資産です。
ただ、日本協会という大きな存在となるとどうなんでしょう。総会なんかに出てもごく限定された分野に関心のある人たちが、一般人が立ち入れない場所に集い、参加者にしか通じあえない話題について話し合っているように思えました。専門職集団なのである種の視野狭窄や偏りも純度を保つためには必要なのかもしれませんが…。(会費の納入方法をめぐってのゴタゴタは滑稽話を読んでいるようで面白かったです。アディクション自助グループでお菓子代の負担をどうするか何時間も喧々諤々討議する熱さに通ずるものを感じました。結局あれどうなったんですか。笑)

僕は今、将来のことについては根をつめて考えることができないモードです。働きたいという思いは常にあるんですが、これは自己実現というよりは生理的欲求に近いものです。ただ、意志をもって選び、覚悟した道でないと思っていたものがいつの間にか自分の人生になってしまっているってのもありなのかなあと思ったりしています。決めることが多すぎたり、大きすぎてどうすればいいのかよくわかんなくなったら?僕だったら…何もしません。折り合い、頃合い、なれ合い。過ぎ去ってから気づくんじゃなくて、真っただ中で見極める力が欲しいものです。
「本音」と「建前」もわからなくなります。実際この中での暫定的な人間関係ではてらいなく、仮面をつけず、素でいることができます。このさらしっぷりは一般社会では決してできなかったことです。とても気持ちのいいもんですね。
しばらく前の手紙でITさんは何か一つでも秀でた才能が欲しかったと書いてありましたが、僕からみたらそのままで十分持っている、持ちすぎている、持て余しているようにも見えます。とにもかくにも人から求められるってことはすごいことだと思います。ITさんが別の大学に、@@さんに、@@さんにも僕にも必要とされるということはすばらしいことなんです。そのままで十分だと僕は思っています。
ITさんはゴールデンウィークをどんな風にして過ごす予定ですか。情報砂漠にたたずむ僕に何か新鮮なネタを。そのすこしのうるおいで生きながらえることができます。いつも感謝しています。手紙が届いた日は特に感謝しています。ITさんがぐっすり毎日眠れる春になりますように。

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