ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

MTさんへの手紙 その6

日曜の刑務所の空気はひどく澱んで重い。何をするにも億劫で読書も妄想もはかどらない。だけども手紙だったら書けそうな気がして候。

元気ですか。風邪などひいてませんか。
さて何を書こうかともらった手紙を読み返してみました。
職場で「もしかして若い子たちにうざがられてるんじゃないかしら、私…」のくだり泣けました。そんなことないよと言ってあげたいけど、そういう嫌な直観って嫌なくらいに当たっているのが世の理でして…きっとうざがられてるんじゃないかなあ。間違いないと思うよ。
まわりが時速60キロで走っているなか80キロで我慢してるけど、本心では100キロオーバーでかっ飛ばしたいって感じなんだろうね。愛されるウザキャラって女性ではあんまりみかけないし、開拓してみてはどうですか。
楽しく仕事がやれていればいいんじゃないかなあと。今見えている景色を楽しんでください。

クスリにまつわるエトセトラを考えてみました。
違法薬物使用事犯者は収監というひとつの起点から「更生」「懲役」「贖罪」「回復」のゴールを目指すことになります。もちろんこれは目的も違えばそのプロセスも重なりません。ところが当事者も周りもこのことをいっしょくたにしがちで全て同時並列的になしえていくものと思い込んでいます。実際には懲役が終了し、出所してから回復はやっとスタートしはじめるわけで、更生や贖罪の道はもっと先へとはてしなく続いていきます。しかしながら懲役がすんだ時点で回復して許されて真人間になった気になってしまい…。
また厄介なことに自らを責め、悔い改めさせ反省へと導く贖罪のプロセスが自己肯定感を向上させようとする治療の妨げになる事実の一方で、回復に重きを置く疾病概念(ざっくりいうと薬中は病気なんだから罰しても無意味ですという考え方)は世間の…って書いててよくわかんなくなってきた。
とにかく薬物依存ってのはめんどくさくてわかりずらいってことです。
仮面を脱いで素顔をさらして正直に生きなさいといわれても実際問題として依存症の病人の仮面と更生を目指す罪人の仮面を場面に応じて上手に使い分ける器用さが求められます。

クスリをやめるためだけであれば、ここでの収監生活はどうにもトゥーマッチ、かつミスマッチな環境だということは間違いあれません。それは再犯率の高さが証明しています。
だけどこれまでの生き方を省みてそれを変えたいと思うものにとてはうってつけなんじゃないかと。ある程度大人になってしまってから、一度出仕上げてしまったものを壊してもう一度再成(再生)させるには、反省とかやる気うんぬんの精神論でなく、徹底された枠組みによる構造化された環境に身をおくことが最適に思えたりもします。
他力本願にきこえるかもしれませんが、人を変えるのは環境なんだと思います。才能でも努力でもなく、つま先ほど意志と環境が人を変えるんだと。

100まで生きるつもりがいろいろアクシデントがあり。目標を80へと変更しました。なので今は人生の折り返しあたりです。うまいこと君子豹変したいものです。
なんてこんなわかった風なことを書いてはいますがなかなかうまくいかない日々の連続でして…。
「模範囚なんでしょうね」という手紙の文字が痛い。規律、規則、規範で成り立つ刑務所においても、つい独自の行動様式を試そうとしてしまう悪癖(もう体質といっていい)のせいで、注意、指導をうけてしまいます。自分なりの工夫とか良かれと思っての配慮とかも、理由がどうであれ枠からズレた行為は役に立たないどころかマイナスとなってしまいます。できる人間でなく、きちんとした人間になるための行動療法を受けている感じです。
さすがに最近はあまりありませんが、八王子医療のときには免疫をあげようと腕立てをしていて懲罰をくらいました。
やりたいことを押しとどめるのにストレスをおぼえてしまうアシタカの呪われた片腕です。けどまあここで擦り切れていく分はかまいません。どうとでも乗り越えていけます。外に出たらという希望があるから。外に出てから何を希望にしていけばいいんでしょうね…。

おっと新聞が回ってきました。羽生君すごい金メダル。宇野君も銀ですごい。二人とも300点超えだって。ボクのCD4値よりも50ポイントも上だ。うらやましい。
15分で読み切らなければいけないので今日のところはこの辺でやめます。ではではお元気で。

 

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好き勝手に悪さを働く呪いの右腕を持つ同志