ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

雇用主への手紙 その5

ほぼ春です。太陽の光も黄色く色づいてきました。もう寒いと口にしなくていいと思うだけでも幸せです。
お元気ですか。もしかしたら両親から連絡がいったかもしれませんが、府中刑務所に移送になりました。一人きりでのるマイクロバスから移送中に見えた四か月ぶりの外の世界はあまり変わっていないように感じました。変わってしまったのは自分の方で静止画のような毎日に順応しきっていたせいで、動きのある景色を眺めているだけで消耗してしまいました。クラクションや工事現場の騒音にも体がびくっとなってしまいます。刑務官の怒号や鉄製の扉のガシャーンと閉まる音には平気になってきたんですが…。だからなのか府中刑務所の敷地内にマイクロバスが入ってしまうと明らかにほっとする自分がいました。

今は病舎とよばれる建物の単独室にいます。作業もはじまっていて、クリップの組み立てなどを自室でひとりこつこつとやっています。こんな軽作業ですがやることがあると一日が早い。そして寝つきがいい。役割があるって体にも気持ちにもいいと実感しています。

府中刑務所にはかつて受刑者の出所後の受け入れのため数回来たことがあります。その時のことを思い出しました。そのときの受刑者さんたちがいたであろう病舎に今自分がいること、面談で利用した面接室で自分が分類面接をうけていること、何とも言えない不思議な感慨です。施設では医療観察法の対象者や定着支援センター関連の触法障害者の受け入れを積極的にやってきました。かられに対して、どこか僕自身シンパシーとまではいかないにしろ、親和性が高かったのかもしれません。
分類面接では社会復帰調整官みたいな人にこれまでの成育歴、病歴、犯罪歴などのインテークを聴取されます。余談ですが、法務省関係の方々はまず名前を名乗りません。きっと個人で対応しているんでなく組織として対応しているという意思表示なのかと思います。この面接ではセクシャリティの部分をじっくり聞きとられました。自分がやる面接でその部分に踏み込んで話をしてもらうという経験がなかったので新鮮でした。きっと今後の処遇(雑居か単独室か等)に影響するんだと思います。しばらくはここで治療を受けながら作業になるでしょう。

八王子医療刑務所にいたころは、他の人たちに比べて自分は数値が高く、無意識に優越感をおぼえていました。ただ、ここでは標準以下。自分をできるほうだと思い込んで進学した高校で、実はそうではなかったという現実を思い知らされたあのショックによく似ています。

人との交流の機会といえばここでも戸外運動の30分のみ。八王子医療刑務所と同じ八割がゲイ。外国人が多いのも特徴ですが、ゲイの存在感にはかすんでしまいます。みなさんそれぞれ身のこなしがひらひらしていたり、るんるんな空気をまとっていたり、立ち振る舞いがしっとししてらっしゃったり、つまりはおねえさんむき出しです。丸刈りに人民服みたいなだぼだぼの舎房着で運動中「日に当たるとシミが…」って顔をしかめる姿はシュールですが、それでいて強さを感じます。

それにしても皆さん薬の話が大好きです。やめる気がある人も全くない人もそのどちらでもない人も。まあ共通点といえばHIVか薬の話なのでそうなってしまうのも致し方ないでしょうが。普段はおとなしくしているのに話題が薬になると目をらんらんとさせるおじさん。真剣にききいる若者。ここは社会生活のようにとりつくろう必要もない分素直なところをさらせる気軽さもあるんでしょう。この集団の中で「僕はやめる気満々なんで、皆さんお好きにどうぞ」的態度をとると浮いてしまいます。うくだけならまだしも、そうなった場合色々めんどうそうなんです。相槌ていど、同して和せず。

「自分に根拠のある信念をもつ」と前回の手紙に書かれてありましたが、重い言葉ですね。超長期目標です。今は「己、自らを知れ」というのが僕のテーマです。自分の問題、人との違い、生きる意味、いつもこの三つを探しています。
今日は土曜日、時計がないのではっきりした時刻がわかりませんが日の差し込み具合から15時すぎあたりかなあ。東北の地震から丸6年。なんだかんだいって自分は今安全な場所で生きることが許されています。やっぱり感謝です。
年度変わりということで忙しいかと思います。こちらは年度変わりなく常に出入りのある場所ですけれど。
先生、ご家族にとってよい春になりますよう祈っています。ではまた。

 

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