ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

ITさんへの手紙 その5

こんばんは。
やっぱりと書いてしまっていのでしょうか、予想通り府中刑務所でした。八王子からわずかに都心に近づきました。
こちらでは文書の発信は月四回、指定日のみというシステムなのですぐに連絡できずにすみませんでした。もしかして八王子の方に郵送いただいていたようでしたら申し訳ありません。

こちらに来て一週間です。八王子の音のない景色の止まった二次元の世界から、にぎやかで動きのある三次元の世界に身を移し、心も体もついていくだけで精一杯です。ここでも病舎の単独室に入っています。ゲイでHIVだとどこにいっても隔離処遇なんでしょう。病舎というのはよく新聞なのでもみかける養護工場なんかがある建物です。八王子が病院だったらここは福祉施設のようです。「病院から福祉施設」って社会復帰への王道ですね。まあ単独室収容者はその養護工場にさえ行けず、自室で作業しかできないんですが…。今は考査期間中(今後の処遇方針を計画するためのアセスメント期間)のため、分類面接やら知能検査やらあわただしく毎日が過ぎていきます。さっそく作業も始まって、ハンガーのシールはがしに四苦八苦。シールの粘着で指紋がはぎとられそうです。

さてITさんの手紙を読み直しておりましたが、「避難者のメンタルヘルス」ですか…。大きい。大きすぎてなんも言えねえって感じです。きっとこんな態度じゃいけないんよすね。「その現場にいる人じゃないと語れない。口にすることが許されない」って空気にすることが閉塞感を生むんだと思います。僕なりに思うこととして…。3.11以降、「和をもって尊し」「義理と人情」「つながり」…そういった精神を大切にしようとする社会が盲目的に肥大している気がします。仲間を守ろうとする社会が、輪を乱すものに有無をも言わさず罰を与える、ルール違反者を立ち直れないほど責め抜く。不倫芸能人へのバッシングやヘイトスピーチにはこういった社会心情が背景にあるように思えます。
薬物問題にからめて考えてみたりもします。テレビなんかのチャリティ番組の中で「絆」「絆」とセミみたいにやたらわめいていた善意の芸能人たちが、薬物疑惑のタレントにたいして、同じ風にみられて迷惑だ、一発退場と冷たく断じるその豹変っぷりがすごく怖いです。あなたたち同じ業界の仲間でしょうって思ってしまいます。尾崎豊長渕剛とかの時代は、少し時間がたてば夜ヒットなんかで歌ってたのに、今は成宮君なんか疑惑報道だけで追放ってこの仕打ち。ハリウッドが理想とは言いませんが、転落からカムバックするまでのまるっとプロセスごとエンターテイメントとして受け入れる土壌には強さを覚えます。多様性に比較的寛容な芸能の世界においてすら日本だと薬物問題はアンタッチャブルな案件なので、一般社会では風当たりはさらに強そうです。釈放後の生活を考えるとかなりの強さが必要だと感じます。(覚せい剤使用というルール違反を無条件に受け入れろといってるのではないので誤解なきよう)。
「ダメぜったい」は十分に浸透し、誰もが覚せい剤使用が逸脱行為であるということは共通認識となりました。日本の生涯違法薬物使用者は人口の2パーセント(これも結構あやしい数字)と言われています。この2パーセントの一部の人が前科者となるわけですが、残念ながら絆社会には入れてもらえません。世間に許してもらおうとは思っていませんが(世間に対して特に悪いことをしたとは思っていませんし)、まずは知ってもらいたいなあって思っています。まだまだお薬事情については言いたいことがたくさんありますが(笑)この辺で。

日本精神保健福祉士協会の退会届ありがとうございました。事務局の方を困らせてしまい申し訳ありませんでした。資格の失効は刑の終了後二年でとけるらしいので、しばらくは名乗れません。名称独占でよかった。

本日採血でした。自分は最後だったんですが、机の上には僕の分も含めてHIVキャリアの血液の採血管が数十本。ある意味殺人兵器なのかもと眺めていました。ここで回復すれば静岡、黒羽へ移送となるらしいです。この中の工場ということではないらしいです。また詳しくは次回の手紙にでも。シールはがしでもう指が限界です。ではではごきげんよう

 

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同士です。