ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

おくらいり

刑務所で書いていたノートをたまに読み返す習慣がある。忘れてしまった記憶がそこには残っているから。ふとめくったページに目をとめる。出せなかった手紙の下書きだった。どれどれと読んでみた。...それがあまりにあんまりだったんでここに転記してみる。


前略
思うがまま書きます。どう伝えようか(伝わるだろうか)考えないで書くんで覚悟して読んでください。
今回もらった手紙にはとにかく頭にきました。いいかげんしつこい!くどい!芸能人の息子の逮捕にからめてまたまたまた(三通連続)責められ続けてうんざりです。
ボクは今、自分の罪で罰をうけている最中です。見ず知らずの芸能人のやらかしたことについてボクを糾弾しないでください。清原、ASKA、そして今回と芸能人がクスリで捕まるたびにボクは謝り続けなければいけないのでしょうか。きっと「その通りだ。お前はそういうことをやらかしたんだから反省、後悔、謝罪しつづける姿を周りに対して示すのが義務なんだ」と言うんでしょうね。嫌だ。ぜんぜんわからない。わかりたくない。
いつもは、やれやれまいったなあと流せたり、世間の冷たさをうける予行練習だと受け止めたりできるんですが、今はダメみたいです。もう勘弁してください。
手紙にソフトバンクのことやグーグーの話があっても全くなごみません。ずっとこの叱責の文面に引きずられてしまいます。「しっかり」「気をつけて」という気づかいすら指示、命令されてるように思えてしまいます。
脅迫のようなもの言いに受け取られかねないと思ってずっと言えずにいましたが、この際だから言います。ボクは病気です。あまりにも逃げ場なく責められ続けると、あーもうクスリ使うしかないのかなあという気持ちになってしまうことがあります。これまでもありました。ギョッと、いやゾッとさせてるでしょうね。けど本心というか事実です。
だから追い詰めないで欲しいという訳ではありません。いや責めるくらいならほっておいて欲しいという感じです。どうして欲しいか自分でもわかりません。
ともかくため込まず書きました。吐き出した感じです。支離滅裂です。
二人ともボクに対する憤りを吐き出す場がなく心配や愛情がこういう言葉になっているんだとはわかります。だから手紙には自由に書いてください。勘弁してほしいという言葉とは矛盾してしまいますがボクはボクで自由に(言ってほしくないことは言ってほしくないというようなことも含めて)伝えようと思っています。
言いたいことをいうのはすっきりするんだと思っていましたが、そんなこともないんですね。言わずにいるよりはマシ程度なんだと知ることができました。
今日も午後から雨が降りはじめ空は白。10月中、外に出たのは十一回。色白になりそうです。
2017年10月吉日


幼稚な子供の書く文章だ。ここまで幼児がえりして攻撃的にならなければいけないほど弱ってたんだと。つらかったんだと。自分で書いたものなのに読んでいて胸が痛む。
ロバの耳をした王様の秘密を吐き出す穴がボクにも必要だった。それがこの手紙だった。
信頼と許しがあってこその自由と誰かが言っていたが、自由な関係にはボクら親子はまだまだほど遠いことをぎりぎりのところで理解したんだろう。出さなくて(出せなくて)よかったと思う。こんな恨み節だけでできた手紙は、ただの不幸の手紙だ。不幸の手紙は読んだ者も書いた者も不幸にする。踏みとどまった自分をえらいと思う。
今だって読ませられたもんじゃない。こんなゲロみたいな手紙。こんな風に思ってたんだよって言えるようになるにはもうすこし時間が必要だ。ちゃんと過去の話にしてしまえてからだ。この手紙は試金石だ。もう少し回復するから待っててほしい。
きっとうまくいく。いつか笑って読んでもらえる。手紙を書いててよかったと思える日が来る。だってあのイソップ物語だって結末はめでたしめでたしだったじゃないか。

 

 

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習慣、もとい収監ダイアリー