ＩＴさんへの手紙 その１８

ハッピーバスデイトゥユー。お誕生日おめでとうございます。
当日ジャストに届けることができないので、せめて当日に手紙をしたためます。

お元気ですか。
こちらは雨です。景色にくっきりと無数の白い線を走らせる冷たい雨です。
雨の日はなぜか作業がはかどります。雨音が集中を促進するのかもしれません。そしてうつむいた姿勢でひとり単調な動作を繰り返していると視野がだんだんと狭くなり妄想のしっぽが頬をなででトリップへいざないます。今日の妄想は…ちょっと書けない。（笑）とりあえずここに来て妄想上手になりました。

そうそう色々ありましたが来月あたり仮釈になりそうです。（これは妄想ではない）。
めでたい。うれしい。…だけどあれだけ待ち焦がれていたのにいざとなるとぴんと来ないというか、ぱりっと晴れた気持ちになれないんですよね。梅雨のせいでしょうか。
収監初日「こんな格好に自分はなるべきじゃない」「こんなところは自分の来るところじゃない」「こんな態度で扱われていい存在なはずじゃない」と心で叫んでいたのも遠い昔。
いつの間にか居場所になり日常になってしまったんだなあ。少し長くいすぎたのかもしれません。
インディペンデンスデイ。その日を迎える準備をといっても特別に何かすることもできることもなく昨日と同じように今日をこなしています。先が見えたことで今の生活に張りがなくなってしまいました。新入懲役が来ても関心がわかず、食事のメニュー表にも一喜一憂できなくなったし、集会のお菓子もなんだか味が薄く思えてしまうほどのモノクロ具合です。日常のあれこれに対する感情がおざなりです。

これからどうなっていくのかわかりませんが、いい風になっていくでしょう。いい人との出会いはいい話で片が付くと相場が決まっています。人に恵まれたボクの未来はいい風になるはずです。
今年で厄もあけますし、本当にヤク（薬と厄のダブル）がらみのヤクに振り回された三年でした。あらためてヤク払いせねば。

ＩＴさんは毎日どんな風に過ごしてますか。
いつもありがとうございます。本もどうもです。和楽は見ごたえのある雑誌ですね。中でも一番目を引いたのはずいぶん手入れの行き届いた林真理子。伝統工芸にひけをとらない出来だった気がします。
いろいろとちゃんとした話はいつか直接お会いしたときにさせてください。
今は感謝だけ。ありがとうございます。
それではまたそんなに遠くないうちに。
ＩＴさんの幸福と幸運をいつも祈っています。

ちょっとブルボンヌさんにも似ている