雇用主への手紙 その17
六月に入り廊下に扇風機が登場しました。
巷でよく見る羽がオレンジ色をしたあのでかいやつです。
ちょうど部屋の真正面にどんと置かれ起床から翌朝四時までほぼ終日回り続けています。けっこうな轟音です。風よりも音をまき散らしています。その轟音がピタッとやむ朝の四時の静寂。生命維持装置が外されたときのような見事な無音世界。圧迫感のある静寂に目が覚めます。夜の九時以降は起きている権利のない生活なんで毎朝四時起きでも体には負担のないスケジュールです。早起きの習慣が身につけばなあと思っています。
いかがおすごしですか。
こちらは…そろそろ仮釈になりそうな気配です。はっきりとした期日は一週間前にならないとわからないんですが、来月には出れるんではないかと予想しています。委員面接と呼ばれる調査面接から1~2か月後に仮釈というパターンが多く、それにならうとボクの場合、先月にその面接があったので七月中にはいけるんじゃないかと。この間、懲罰なんかになればふりだしにもどることになるのでこれまで以上に「粛々と」を心がげています。
とはいうもののやはり浮足立っちゃいますね。梅雨が終わるころにはとか、手元にある28日分の処方薬がなくなる前にはとか、カレンダーを見る回数も増えて落ちつきません。カウントダウン中毒です。
ただわくわくしながらも「自由?それはめでたいことだが、だからどうしたってんだ」という風に盛り上がり切れないさめた部分もあります。カウントゼロからその先についてがうまくイメージできてないせいなんでしょう。出所者誰もが体験する通過儀礼であればいいんですが。まあ「今こそ」の貴重な時間であることには間違いないので大事に過ごしたいです。
落ち着きたいなあ。はやく落ち着いて生きたいなあと思っています。出てからしばらくはあわただしい毎日になるはずです。目まぐるしいかと思います。けどそのうち、あらゆるものが然るべきところにおさまったところで、自分をふわっとその世界にのっけれればなあと思っています。
出た後、ボクは恩返しをしなければいけません。そのためにあれやこれやと仕事を言いつけて押しつけるのはIWさんの義務なんでそこのところよろしくお願いします。
ここからの最後の手紙になるのでしょうか。なればいいと思っています。どうなるにしろ近いうちに会えることように頑張ります。IWさんの幸福と幸運を梅雨空に祈っています。
そうそうこれこれ。雑居からのアンモニア臭も吹き飛ばしてくれて良い。