ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

MTさんへの手紙 その9

四月の土曜。休日の朝特有の静けさの中、春の心地よい風が部屋通り抜けていきます。ここに来て風にあたる快感を知りました。
お元気ですか。
手紙を受け取ってくれてありがとう。
返事をくれてありがとう。
笑ってくれてありがとう。
面白かったと伝えてくれてありがとう。

松山刑務所の脱獄囚まだ見つかりませんね。今はどこを走ってるんだろう。彼は今、日本で一番孤独な人間だと思います。応援はしていませんが同じ受刑者という立場でいる以上どうしても気になってしまいます。追うよりも逃げる者の気持ちを慮る性。三度の逮捕による一種のトラウマといえるのかもしれません。だから前回MTさんが手紙に書いていた夜間の利用者の逃走劇についても追う施設職員よりも逃げる利用者にぐっと感情移入して読んでいました。
追うも追われるもどちらも頭の中は「かんべんしてくれよ」って同じなんでしょうけどね。面白いものです。
まあだからってプリズンブレイクはないよなあ。
今この部屋に鍵がついていなくてどの扉も開放されていたとしても自分の場合、刑期を全うしないと出ない、というか出れないなー。
贖罪というメンタル的責務に加えて処方薬を飲み続けなければ免疫が不全化してしまうというフィジカルの問題もあり社会保障なしでは生きながらえることはできないからです。虚弱体質化してしまったボクにとって、国から逃げることは自殺行為でしかありません。
こんなの一見考えるまでもなく当たり前の事実なんだけど、保釈中は「あー死んでもいいからもう何もかも捨ててしまって蒸発しようか」と懊悩していたこともまたもう一つの事実であり…人間ってのは愚かでかつ不思議な生き物だなあと。
HIVはふらふらと何処へでも流れていかないようにボクを社会につなぎ留めておくための錨なのかもしれません。

本の差し入れもありがとう。
MTさんが石田衣良フリークとはしらなんだ。「IWGP」「4TEEN」あとは「娼年」くらいしか読んだことなかったけど、なんかジャンクフードみたくサクサクいけていいね。
「話す技術聞く技術」は一日一章ずつなのでまだ半分。月末までにはクリア予定。

さて、施設の入所基準?だっけ?どういう基準で相談があった時に施設利用の受け入れを決めるかについては、MTレーダーによる「いい人レベルで測る」ってのはよくわかるなあ。自分の場合は「いい人」でなく「かわいげのある人」という物差しでした。何かこうこちらの支援欲みたいなものをくすぐってくる相手だと欠点もあっさりリフレーミングしちゃうしね。
ただこういう曖昧でニュアンス的感覚ってのはなかなか他人とは共有しずらいもんであって、そのことをスタッフに理路整然と説明することよりも「施設長が気に入ってんだからもう仕方ない」と思わせてしまう風土を職場につくりあげることに力を注いでいたような気がする。
きっちり働けてた時はこういうパワハラと呼べなくもないトップダウンシステムでもうまくいってたんだけど、クスリにはまっていくにつれて求心力もかげり、くさり、立ち消えてしまい最後のあたりには「勝手なことばっか言って!」という声なき声が吹き荒れていたような...かりそめのカリスマはあっけなく崩壊しました。いい先輩どまりで良き上司にはなれませんでした。
よく利用希望があったときにどんなケースであっても「断りたくない」と言ってたことも思い出します。傲慢だったなあと今は思う。(そもそも「断る」「断らない」という言葉自体が一方的で上から目線ですしね)。
あの頃はべきだべきだねばならぬ症候群を患っていて、相談された利用者を受け入れることは自分たち施設(PSW)の義務だと思い込んでしました。だけど義務だと思ってやってるとそのうち失敗しても仕方ないという風になってしまうんだなあこれが。「支援させてください。いいですか」の心意気はわすれちゃいかんなあと。
それともうひとつ「どんな結果になっても納得できる」とお互いが言い切れないのであれば、それは別の道を探すべき(あっ!また「べき」登場…)なんじゃないかとも思う。あの頃の自分に欠落していたもの。謙虚さと覚悟。うん!これ大事よ。
入所施設ってのはよくも悪くも集団がさけられません。そこを活かして合理的に機能させるにははっきりした入所基準で枠組みをつくり、ある程度目的を共有した利用者に的をしぼる必要があります。そうすることでグループワークなんかも効果的になされるだろうし、職員のスキルアップもはかりやすいはずです。
入所の間口が狭くなってしまうということに抵抗があるのかもしれませんが、自分たちの支援に責任をもつってのはそういうことなんだと思います。
今の@@@がどんな風なのかはわかりませんが、自分もいなくなって結構たつし新しいブランドイメージをつくるのもいんじゃないでしょうか。まあここで自分が語ったことはすべて運営についてだから、いちソーシャルワーカーとしての限界を自分で作ってしまうことはお勧めしません。自分の身の丈よりも少し大きいケースをスーパービジョン受けながら成長していってください。
仕事の話が長くなってしまいました。
刑務所の中で仕事のことを考えるのは嫌じゃないかと気にしてくれてましたが、ウェルカムです。
IWさんも報酬改定の概要をどっさり147枚やLGBTの学生のアウティングのニュースの記事なんかを送ってくれて「当事者としてどう考えますか」とか。(笑)
ITさんも学会のポスター発表の資料「保護観察の対象となった薬物依存症をもつ人の地域支援」を送ってくれて、発表者とやりとりを報告してくれたりだとか。(笑×2)
なので気にせずに、また新ネタまってます。

今ここでの生活は自分らしいことは何一つできていませんが、なぜだろう以前よりもずっと自分らしく生きているという実感があります。
てらわずにいれる場所にこそ本来の自分らしさってのはあるのかもしれません。っていうか自分でいれるは自分しかいないんだから、ただいるだけで、もうそれだけでこれ以上ない位の自分らしさなんですよね。
まあだからってずっとここにいたいとは思いませんが…ホスピタリズムには徹底抗戦していくつもりです。(笑)
どこかから入ってきた羽虫をパチンと今年初の殺生なう。虫との戦いの季節がやってきます。猛暑とのうわさもあり、どう迎え撃とうかと戦々恐々としています。
その前にゴールデンウィークですね。
MTさんの誕生日もそろそろじゃなかったっけ?
MTさんにとって輝く連休になりますように。
いつもありがとう。

 

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泥ゲイ