ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

ITさんへの手紙 その3

啓蟄の候。蠢きはじめましたか。
おかげさまで僕のHIVウイルスは新薬の効果てきめん、ぐずることなく鎮静減少しています。
こちら八王子の寒さは相変わらずですが、目に見えない春は近づいているようでCD4値が三か月連続で200超えを達成しました。うまくすれば一般刑務所へサクラサクことができるかもしれません。日本広しといえど今、刑務所へ入所することをここまで熱望している人間はそうそういないのではないでしょうか。

忙しい中手紙、本の差し入れありがとうございます。ここでは殻に閉じこもってうじうじと自分のことだけを考えてしまい、(本来そのための時間でもあるんですが)、反省にたどり着く前にショートしそうになることもしばしば。五六冊同時進行で読み進め、脳の活性化に努めています。
「ポーの話」。大満足。「最も新しい空にこそ全ての人は顔を上げその新鮮な青さに目をみはるべきなのである」ってホントですよね。東京には空がないって口走ったどこぞの負け犬は僕でした。三十分の戸外運動で見上げる東京の冬の空はとても広く美しい。同時に冷たくとても厳しい。これから東京で生きていく前に知れてよかったなあと。

ITラブストーリー。待ち人来たらず、残念。次に期待ですね。
ITさんの「これからの恋愛は見た目に重きを置こう」という方向転換を僕は全面的に支持します。かねてより人は見た目から生きざまが読み取れるものだと信じていて、「目元に感情」「口元に欲望」「顔つきに主張」「立ち振る舞いに性格」「居住まいに生活」「歩き方で生き方」ってな具合に結構むき出しませんか。ただそうはいえども、もと職場のスタッフたちは僕のセクシャリティについては誰一人気づいておらず、逮捕を聞いても「未成年女子への淫行」をまず疑ったようでして、確実ではなさそうです。
まあ本質を見抜けたとしてもコントロール不能になってしまう情が恋愛なんでしょうけど。単純にイラっとしたときに見た目が好みだったら許しやすいってのはありますよね。見た目がタイプじゃなかったらイラっとの沸点もぐっと下がってしまいますし。
僕が付き合ってきた人たちはまっとうな人が多かったなあ。当時、僕のセクシャリティを知らなかった父親は彼氏に会って「どうしてお前の友達はいつも気持ちのいい青年なのに誰も結婚していないんだ」って首をかしげてました。みんな最大限僕のことを理解しようとし、きちんと理解すると去っていく。正しい選択のできる賢い人たちでした。
ってことは僕の見る目は間違っていないはず。あとはこちらの人間性の問題。その最大のネックになるのが薬物問題。…回復せねば。
覚せい剤は自分のためにはやめられない。けど誰かのためだとやめようと思うことができる(気がする)。保釈中にダルクに通っていた時、メンバーが「彼女が欲しい彼女欲しい」と連呼しているのを聞いて、いやいや今はそれどころじゃないでしょう、もっと直視すべき問題があるんじゃないかって思っていましたが、今ならわかる。誰かがいることでしっかり立ちあがる力を得れるわけとその誰かを求める気持ちが、ちゃんとわかる。回復のための恋愛ってのもありなんじゃないかなあって気がします。
「小さな出会いを繰り返し楽しむ。そしていつか運命の人と出会い、人生を変える」。それが僕のライトモチーフでした。これからどうなっていくんでしょう。きっと人たらしなとこは変わんないんだろうなあ。

MAさんとあったそうですね。本妻と愛人の描写受けました。まいったなあって後ろ頭ポリポリしながら喜んでしまいました。愛されてますね僕って。
収監後、拘置所から元職場に手紙を出したんです。十枚以上の大作を。結局相手の心情を無視した自分を満足させるためだけの手紙だったんですけどね。
MAさんは僕の保釈中の再逮捕を知っているので、(他の職員と違ってさらに一度裏切られている身なので)、きっとあの手紙に対しても鼻白む思いがしたはず。はりつけてもらったメッセージから彼女の賢さと勘の良さと迷いがなんとなく伝わってきます。傷つけてしまったなあ。

スーパービジョンのマッチングではMAさんはやる気と実力がどちらも高い人なのでフォルダの容量がそれ以上ある人がいいなあと思ってITさんを指名させていただきました。というのは建前でもしかしたらITさんのスーパービジョンを受けさせたいなあという思いが先にあって、それを向かい入れることができる職員はうちではMAさんしかいなかったというのが本当のところかもしれません。なんにせよ無事二人が遭遇できよかったです。

ここでは患者という立場、施設入所者という立場から気づくことが多くあります。「環境の変化がないなかで、たった一錠のマイスリーを減らすことがどれだけ怖いかということ」「いろいろなタイプの職員がいても、結局一番厳しい職員に対して問題のないであろう態度をすべての職員にとってしまうこと」「部屋から一歩も出なくても(出ない分)外の雰囲気ははっきり伝わってくること」などなど。関わられ方から関り方を学んでいます。これまでは生活を支援することはなんとかこなせていた気がしますが、人生にまで交わる関りをすることはありませんでした。将来またこの仕事をしたいと思っているので、その時はもう少し相手の人生に触れ合える支援が(たとえ共依存とよばれても)できるようになりたいです。

大げさに日々聞くかもしれませんが、手紙は救いです。世間から取り残されて忘れ去られていない事を自覚できる蜘蛛の糸です。ただそれだけで十分なはずなのに、届けられる手紙や差し入れ本を手にするたびに他の受刑者に対して優越感をもついやらしい自分がいます。救いの糸をプチっとやらかして地獄に舞い戻るカンダタのようにならないようにしたいです。要は、ささくれだった毎日に届けられる手紙はうれしいもので感謝してもしきれないってことを伝えたいんです。

ただいま19時。極寒です。指先が氷を握ったように冷たい。というより氷そのものになったようです。止まったままのスチーム。いつもの厳しい冷え込みが日中和らいでしまい、スチーム稼働の目安である十度を超えてしまったようです。もう冬と夜いらない。太陽だけでいい。敬愛する尾崎豊はシングル「太陽の破片」で、尊敬する槇原敬之はアルバム「太陽」で、覚せい剤逮捕から復帰しました。すごくわかる。

寒さで頭がまわりません。変な形に頭が凍り付いてしまいそうです。目の前の今年のカレンダーは福島の吾妻小富士の雪景色。心弾まず…。来月は寒いの文字が入っていな手紙を書きたいです。

こんな風ですがまだまだ元気です。ITさんもお元気で。ではでは。

 

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