ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

親への手紙 その11

 

桜が散ると景色もシラフに戻り、音も変わります。幅をきかせはじめた新緑を遠目にガシャンガシャンとミニクリップを作る毎日です。二人はいかがお過ごしでしょうか。心配をおかけしてると思いますが、心配されることもないくらいに元気です。
明日が今月の最終発信日で時間がないので聞かれたことにこたえていきます。愛想のない手紙になってしまいます。すみません。

「府中での新しい環境にはなれましたか」
→個室なので集団になれる必要はないんですが、細かいルールの違いにしばらく戸惑っていました。転校生ってこんな感じなんでしょうね。今は平気です。

「血液検査はしてもらえるんでしょうか」
→3/2(こちらにきて四日目)のCD4は222。ウイルス量は最小。その他の説明はとくにありません。

「体調はどうなんでしょうか」
→良好。体重は57キロ。肌がカサカサして、角質がぽろぽろおちます。

「春の様子は感じられていますか」
→桃色サンゴの産卵みたいな花吹雪はあっという間に消え去りました。今は新緑がさらに若い新緑を飲み込んで緑が景色を支配しています。閉じ込められている分、風とか空とか木とかそういったものの変化に五感が敏感に反応します。文章もちょっと詩人っぽくなってしまう。笑

「作業にはなれましたか」
→ちまちま、こつこつ、もくもく、たんたん、せっせと一人きり自分のためだけに行う仕事も悪くないですね。

「歯科に通っていましたが、中断していて、そのことも気になっています」
→歯をぐっとかみしめてしまう癖は相変わらずですが、歯茎は回復して今はぐらぐらしません。

「3/24に書いた手紙が4/1につきました。検閲がけっこうかかるようですね」
→書いたのが24日で発信は29日でした。だから中二日で届く計算です。発信指定日は月初めに告知されます。

「自分に都合悪いことは手紙に書くなというけど、あまりにも自分勝手すぎやしないでしょうか」
→確かにその通りなので撤回します。自由に書いてください。僕も直視し受け止める強さをもてるようにします。

「うそをつかないように」「約束を守る人、人の話をきけるように」「やっていいこと悪いことのわかる人間に」「当たり前のことができる、そしてわかる人間に」「裏切らないように」「平凡な幸せが欲しかった、平凡な人生を送りたかった」「気持ちの安らぎの場になってくれればよかったのに」「気持ちのよりどころになってもらえるでしょうか。そういう子供が欲しかった」「支えになってもらえるでしょうか」「気持ちを受け止めてください」「涙があふれてしまいます」
→息がつまって動けません。ごめんなさい。

「あなたのいう「ただうけとめてくれればいい」ということの意味がわかりません」
→どういえばいいんだろう。今は時間が欲しいんです。五分ごと熱をはかられて、まだ下がってないとがっかりされるのはしんどいです。もう少し時間にまかせてほしいんです。変化を求められても今はそれにこたえるすべをもちあわせていません。…伝わんないでしょうね。

「ノーマルに産めなかった、産まなかったのは申し訳ないと思っています」
→自分のことを特別だとも、不幸だとも思ったことはないですし、もちろん、だからうらみつらみもありません。「人のせいにしない(だけど自分でしりぬぐいはできない)」ところが僕の数少ない長所なので気にしないでください。

「みんながクスリに走るわけではないのではないでしょうか。みんな生きづらさを抱えています」
→みんなができることをどうしてあなたはできないのかと問われると何もいえません。出来が悪かったんです。

「声を荒げても話し合う必要があったのでは。今度は逃げないできちんと話し合いましょう」
→正直、逃げないとやられると思っていました。

「支えになってもらえるでしょうか」「気持ち受け止めてください」「自分をかえりみて変えられるところは変えましょう」「やさしい人の気持ちのわかる人になって出所してきてください」
→荷が重いですが、頑張ります。約束しますって言いたいんですが、あの時ああいったのにまた嘘をついたのかといわれてしまいそうで、今は決意で許してください。こんな風に書くと反省が足りてないって思われるんでしょうね。

「私たちにもとめるものは何ですか。求めることはなんですか。そしてそのためにしなければならないことも考えてください」
→求める代わりに何かを背負うって風に考えたことはなかった気がします。ダメですね。求めることは……あまり僕のことを心配して気に病まないでほしいです。僕のことを話したり相談したりぐちをいえる相手を見つけてほしいです。この答えだときっとかみあってませんね。いわんとすることはわかります。心配かけないでほしい、周りが安心できるような生活を全うしてほしいということだと思うんで、努力したいと思います。

「咳こんでねむれません」
→安静にしてよく休んでください。無理せずに。何もできなくてすみません。

「@@の進級祝い」
ありがとうございます。いつかちゃんと会えるように生活をはやく立て直したいです。

「十万円の送金」
→ありがとうございます。一応出所までの経費を別紙にまとめてみました。ここにいた方かマンションの家賃収入がそのままたまっていくっていうのは皮肉です。

もうすぐ消灯です。そしてもうすぐゴールデンウィークです。刑務所の春はとても短いものでした。次の手紙では暑くて死にそうと言っているかもしれません。よい春を。

 

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