ＩＴさんへの手紙 その４

前略失礼。
かなり浮足立っています。机に向かっても体がムズムズしてじっとしてられません。尿意もないのに失禁しそうな状態が継続していてなんか今アカシジアです。
実は一般刑務所への移送が告知されたんです。移送日は２月２７日。行先は当日まで教えてもらえません。
予想外の急展開に気持ちが追い付いていません。いや逆ですね。気持ちだけ目の前の現実をすっ飛ばして、まだ見ぬ場所へ行ってしまってます。心ここにあらず。努力して勝ち得たことでもないのに、心とともに手紙の文字も踊ってます。
いつもこころに松岡修造を五人くらい飼って自分を鼓舞しているんですが、それでも中央線の電車の音なんかが塀の向こうから聞こえてくると外の景色を想像してしまい、それだけでくしゅんとなってしまいます。でも今日は平気そうです。
ここに連れられて四か月。毎週土曜の夕食はカレーなので、「はいとー」（夕食の配膳の合図）が聞こえるとスプーンを準備できるくらいに八王子スタイルがからだに染み付き始めた今日この頃。もう一度、移送先で生活スタイルの獲得を一からやり直しです。新しいスケジュール、人間関係それに行動訓練（軍隊みたいな「マワレミギ！」とかいうやつの訓練）など、不安がないといったら嘘になります。ただ「よかったですね」「お元気で」と一般受刑者が配膳の時にコソッと声をかけてくれたりするとやっぱりよかったんだと気づけます。
ありがたい四か月でした。僕の場合、逮捕のおかげとまでは言えませんが、それがきっかけでＨＩＶの感染がわかり収監後治療がスタートしたので、（実際数値から考えるといつ発症してもおかしくなかったようですし）、やっぱりおかげさまなのかもしれません。
ＩＴさんは新しいクラスの受け持ちやら出張やらなんだか景気がよさそうですね…と書きながらも、明日の今頃はもうここにはいないんだろうなあって自分のことばかり考えています。
送っていただいた本の感想やら、アディクション、ＬＧＢＴのレクチャーやら伝えたいことは新しい場所からまた送ります。
ＩＴさんの幸福と幸運を祈っています。ＩＴさんも僕の回復を祈ってください。　　草々