雇用主への手紙 その４

２月２日。誕生日おめでとうございます。
何もできなくて申し訳ありませんが、お祝い申し上げます。
年末年始と特に忙しいそうですが、お元気でしょうか。
こちらはとにかく寒いです。部屋中の色と音が消えてしまうくらいに寒いです。この寒さは堪えます。入浴時、冷えた体に熱いお湯をあびるとビリビリ電気が走り、しばらくすると指先がジンジンとしはじめ、そうするうちに視野が広がり、景色が鮮明になります。人体の不思議です。送っていただいた本のごとく「蘇える変態」です。そして体調は問題ありません。
今日採血でした。今回の結果、ＣＤ４の数値が２００を超えればめでたく三回連続となるので移送がみえてきます。回復が順調だとあまり伝えることがなくなるもんですね。

本の差し入れありがとうございます。さっそく読んでいます。
受刑者、患者をはずすと今の僕に一番しっくりくる肩書は「本を読む人」です。（次点は「手紙を書く人」）。うらやましがられる環境でもあります。貴重な時間、できる限り読んでやろうと思っています。
どうしてかどんなタイプの本を読んでも仕事がしたいという気持ちが刺激されます。就労に焦がれてしまいます。働くって生理的欲求に近いものなのかもしれません。
現実、出所後は薬物依存とＨＩＶ、そして前科という足枷がついてきます。生きていくためだけの人生であれば再使用、再発、再犯ということも生き延びていく過程として受け止めることもできるでしょう。ただ「仕事のある人生」となれば、「信頼」と「信用」を勝ち取る必要があり、それはクリーンかつ健康でいつづける時間で示すしかありません。そして、そのためにはかなりの時間が求められます。きっと自分の性格的にその中腰の状態をもどかしく歯がゆく思うはずです。まだスタートラインにたってもいないのにそのことを思うとうんざりしてしまう自分にうんざりします。頑張るって言葉はあまり好きではないんですが、頑張るしかないんでしょうね。

お礼が続きます。正しくはお礼のお礼のお礼になりますが。自宅へのお礼のお礼の贈り物（笑）ありがとうございます。かえって気を使わせてしまい申し訳ありません。
親の（特に母親の）切迫感、悲壮感ただよう言動がプレッシャーでそれが愛情ゆえのものだということが十分すぎるほどわかる分、どう伝えていいか悩みます。

前の職場にいかれたんですね。いただいた手紙から大変そうだけどなんとかやっている皆の姿が想像できます。自分がいなくなって消えてしまうものはその程度のものだったんだと思っていたので、続いているのはやっぱりうれしいです。少しは間違ってないこともやれてたのかなあと。

夢にはスタッフがしょっちゅう現れます。夢なのできちんと話したり、謝ったりすることはできませんが目が覚めて覚えていたときには今日も一日頑張って欲しいなあと念じています。

ＩＴさんからも手紙をいただきました。お伝えしていただいてありがとうございました。手紙をやり取りさせていただいて、やさしいですし、ありがたい存在ですが、それだけでない底知れない奥深さを感じます。いいＰＳＷだったんだろうなあ。色々大変そうですが、ＩＴさんには幸せになってもらいたい…ちがう、幸せに気づいてもらいたい…これも違う、幸せであってもらいたい（これだ！）です。

最近のいいことといえばマンションの借り手が見つかったことでうす。心底ほっとしました。お金が人の心理にどれだけの影響を与えるか身をもって知りました。収入がないことの危機感、収入が確保されることの安心感。わかっていたつもりで全く分かっていませんでした。生活レベルでの理解がまったくできていなかったと反省です。経済的に安定していない状態では治療もなにもないって実感。衣食足って礼節を知るです。

人は考え方、感じ方、そして生き方が見た目に出る生き物だと思います。生き方次第で見た目も変わるはず。一日なら一日分、一年なら一年分、二年半なら二年半分の変化があるはず。出たときにあんま変わってないねっていわれそうで怖いですが。今はへらへらした印象を与えそうなんで面会はまだ先で大丈夫です。
毎日逃げているのか、立ち向かっているのかそれすらもよくわかりません。頭を使いすぎて何に頑張ればいいのかさえわからなくなることもあります。ただ何かには耐えています。耐える力をつける訓練をしています。僕はこれまで耐えた先の勝利を観たことがありません。耐えて耐えて、その先で受け入れるまで耐える力を手に入れたいです。今年は飛べない鳥ですが、いつか馬車馬のように働きたいです。

ＩＷ先生の誕生祝いの手紙だったはずですが相変わらずな内容になってしまいました。人との交流が限定されると社交性と協調性がそこなわれて自己主張が際立ちます。すみません。繰り返しになりますが、誕生日おめでとうございます。よいバースデイでありますように。