ある依存症者の終わらせたい日記

人生の大事なことは覚せい剤が全部教えてくれた。HIV×ゲイ×依存症×前科⇒精神保健福祉士のライセンス失効⇒最近復権。君子豹変して絶対に幸せになる。

ノンケの仮面

仮面と聞いて何を想像するのだろう。北島マヤ、麻宮 サキ、少年隊、オペラ座の怪人残酷な神が支配する、スケキヨ…ってラインナップがオカマだなあ。

気持ちはバイなんだけど、体はゲイで、女性とはご隠居(男性ともご無沙汰だけど)、これからはもうつきあうのもセックスも男性がいい。こんな風に言えてしまえるようになったのはいつからだろう。誰にも言わず、仮面をかぶって生きてきた。そう言えば、一度だけ付き合っていた女の子に打ち明けそうになったことがあった。これからのことを考えると行き詰まってしまい、もうゲイだってカミングアウトするしかないと。ところが彼女の方が「私、前に付き合ってた人がゲイだったの。別れた後に聞かされたんだけど...それでもショックだったんだよね」って。やられた〜。先手を打たれた。ボクのカミングアウトは彼女のカミングアウトに封じ込まれてしまった。ゲイにもてる女の子っているんだよね。もってる女ってやつ。ゲイに「もしかして女もイケるかも」って勘違いさせる魔性の女。魔性の女って幸せになんないね。唯一打ち明けてもいいと思った女性は、絶対に打ち明けてはいけない女性に変わってしまった。そんなこともあったが、不自由はなかった。ないつもりだった。ないと思い込んでいた。

ホモだおかまだとからかわれる不器用な同級生を横目に、女子と仲良くするのを嫌がる母親の顔色をうかがいながら、自分の性的興味は隠していた方が得策だと幼心に判断した。

小学生の頃は、歯の矯正治療をしていて、あのギラギラしたブリッジを人に見られるのが嫌で絶対に口をあけなかった。教室みんなドッと大爆笑って場面でも歯を食いしばって絶対に笑わなかった。ドッジボールで顔面に命中して唇が切れ口の中が血だらけになっても絶対に歯を見せなかった。かたくなだった。根性のある子供だった。(あの頃に一生分の根性を使い果たしてしまったのかもしれない)。この矯正のブリッジはボクにとっての大リーグ養成ギブス的存在で、命名するなら表情コントロール養成ギブス。いいのか悪いのかわからないが(きっとよくないはず)、少年時代、感情を表出しつくす前に意図的な感情表出を学んでしまった。

そんな風でも体は大人になる。第二次性徴がやってくる。セックスに興味がわく。したくなる。機会があって実践する。感動する、と同時にこんなもんかとも思う。男性とはじめてセックスするまで女性とのセックスも楽しめていると思っていた。なんのことはない達成感を快感と勘違いしていたんだ。男性とセックスの感想?…知らなきゃよかったと思った。もう引き返せないとわかったから。

引き返さなきゃよかったのに…。人は学ばない。過ちを繰り返す。男性が好きだと確信したはずなのに女性と結婚した。きっかけは妊娠だった。若い二人の夢は、三人で幸せになること。夢は共通していたのに、その夢を共有できなかった。本当によくもめた結婚生活だった。年を取って「あのころはよくケンカしたね」って笑って懐かしめる類のもめ方ではなかった。もう二度とこりごりだと、いつまでも痛みの残る苦い諍いだった。ケンカの経験のなかったボクが仲直りの仕方を知らなかったせいだ。いつも張り詰めていた。喧嘩して仲直りして雨降って地固めたい女とそもそも争えない男が合うはずがない。

決裂は遅かれ早かれやってきただろうが、ものごとにはきっかけがある。といってもよくある話。携帯をみられてしまったんだ。ネットでゲイ向けのアダルトサイトを見ていたことを知られた。つまりはゲイバレしたってこと。付き合ってる相手の携帯を見るときって「何もないことを確認して安心したい」ってよりは、「絶対に何かある。怪しい。証拠をつかんでやる」って感じなはず。どちらにせよ不安にさせたこちらの配慮不足が原因。彼女はパニックになった。泣いたり暴れたり奇声をあげたりその手の取り乱すような混乱ではなく、青白い怒りの女になった。いつも烈しい女が黙るとこわい。「なぐる男もいたけどこんなひどいことをされたのははじめて」静かにそうつぶやき、子供を連れて出ていった。最後に「まあ関係ないけど、とりあえずエイズには気をつけてね」と言い放つ。ちょっとカッコいい。さすができる看護師の捨て台詞は違うね。助言は宙に舞い、のちにボクはHIVに感染するんだが。

こんな感じで、ボクにとっての結婚生活の記憶は、子供についてをのぞけば、くたくたになってただただ疲れ果てたという困憊と、ああやっと終わったという感慨だけで成り立つ。円満な夫婦が奇跡にみえる。きっと彼女もそうなんじゃないだろうか。どうして負の遺産だけは共有できるんだろう?

自分を守ための仮面が大事にすべき人を傷つける。それもとても暴力的に。暴力なんか縁のなかった自分が暴力的に誰かを打ちのめしてしまえるという真実。そのことが自分をさらに傷つける。

仮面をはずすタイミングはミスったが、遅まきながら、今は素顔で生きている。自分の顔に責任をもてって何十代からだっけ?まあいいや、どの面下げてと言われたって、この顔でやってくしかないんだし。はずした仮面はもう二度とかぶれない。今まで守ってくれてありがとねって心の神棚にでも祀っておこう。さて素顔を晒して誰に会いに行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に抱いたとき、もう二度と会えないかもってよぎった予感は今のところ当たっている。

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